トック氏が送る
ノーマル映画レビュー




超時空要塞マクロス〜愛・おぼえていますか〜

超時空要塞マクロス 〜愛・おぼえていますか〜

1984 MACROSS WAR



小さい頃、アニメは結構観てました。ルパン、宇宙警察ウラシマン(敵がクールだった)、ムーミン。
ムーミンは中学生の頃かな、やってたの。無条件に好きだった。ありえないフォルムがまず好きで。
で、やっぱり年喰うと見なくなっちゃう。なんでだろうね。単純に笑ったりハラハラしたりできない。まあそれはいいとして。

テレビアニメの方は詳しくないんですが、映画はちょくちょく観ていて。
最近あまり観なくなっちゃったけど(ていうかアニメ映画って最近ないような)、これは好き!っての挙げときます。

■銀河鉄道の夜(ますむらひろしのキャラクターと幻想的な映像世界、心に染みる映画音楽。不気味さ、怖さを同時に表してるのが凄い)

■AKIRA(冒頭5分間の暴走シーンがめちゃくちゃカッコイイ。こういうアナーキーな世界の友情物語に弱い)

■走れメロス(ギリシャの風俗・風景を詳細に表現した美麗アニメーション。音から動きから何から何まで上手い。変更点もグッド)

■天空の城ラピュタ(凄まじいテンションと疾走感で描かれるアクション。日本にハリウッドはないけど、アニメがそれをやった!って感じ)

話変わるけど「千と千尋の神隠し」ってめちゃくちゃフーゾクっぽくないすか。ていうか風営法にひっかかるって。エロなしソープランド。
冗談じゃなくて半分本気ですよこれ。ユバーバはがめつい女社長で、カオナシはフーゾクに来たタチの悪い客にしか見えないし。
宮崎アニメ好きな人と成行きで観にいったんだけど、ちょっと不思議な感覚。どういう感想持ったんかな?といつも考えないこと考えてしまった。
不思議な感覚になったのは、或部分がやたらフーゾクなのにエロさがないから(当たり前)。
幼女+フーゾク、宮崎監督の発想はまあ凄いと思うし、ホントにやったらカムアウトになりかねない部分を上手に取っ払って見せてる。
話的にはフーゾクで働くのは大変なことだし、そこで働いてる女の子はしっかりしてるよ、可愛い子には旅をさせろ、みたいに感じました。
主人公の年齢は下ですが、魔女宅より1つ次の段階を見せてる。魔女宅よりも、千と千尋は実戦モード。自分の内面に対してよりサバサバしてて。
見せたらショックでかい部分をちゃんと取っ払ってる分、良心的でちゃんと観に来た子供のこと考えてるな、とは思いました。
そう言えば成人式出た時同級生がやたらお水の道に進んでた。3割くらい?なんでだろー。なんでだろー。なんでだなんでだろー。

でまあ今回の「マクロス〜愛・おぼえていますか〜」は勧められて観たんだけど、良かった!おもしろい、とは違う。なんだろうな。
もう偏見持っててごめん!と謝りたい。やっぱり蛇の道はヘビというように(例え悪いな)、専門家に頼るのが一番いい。

というより、子供の頃からつい最近まで、SF映画が嫌いだったんです。偏見持ってて。愛がないなーって。
スターウォーズのどこに愛があるんですか。ありますか?ないよ。未来世紀ブラジルに愛はあるか?ないよ。
ゼイリブ、メガネかけるかけないで10分以上も殴りあいすんな!でも面白いからいいや。
2001年宇宙の旅、わけわからん、いうねん。猿の惑星。一緒や!猿でも!(意味不明)
ここに挙げた作品、映画として嫌いなわけじゃない。でも、その作風、もっと言えば似通った或種の「匂い」に馴染めなかった。
ゼイリブはそういう匂いはしないけどね。もういっぺん見たら印象違うかもしれないけどなー、なんで嫌いになっちゃったんだろ?
前世で畑耕してる最中頭に隕石ぶつけて死んだりしたんでしょうか。また前世とか言い出したよこの人。

え?ホラーにはあるの?あるのも、ある。「ローズマリーの赤ちゃん」とか。恋愛じゃなくて母性愛だけど。
で、そんな風に愛のあるSF、それが「マクロス〜愛・おぼえていますか〜」でした。(ぶっちゃけ「ダークシティ」や「惑星ソラリス」もあった)


あらすじ


一条輝はマクロスの防衛軍パイロット。

マクロスが地球を旅立って五ヶ月が過ぎたが、依然としてゼントラディー軍との対立は続いていた。

艦長グローバル、隊長のフォッカー、隊員のマックス、柿崎、上官の未沙、クローディアと共に戦争に明け暮れる毎日。

或る日、一条輝はマクロス内に進入した敵を殲滅したが、その場にいたアイドル、リン・ミンメイと共に廃墟に閉じ込められてしまう。

そこでミンメイと恋愛関係に。助かった後、ミンメイと2人で宇宙遊覧を楽しんでいたが、ゼントラーディ軍と遭遇。

助けに来たフォッカー・未沙・カイフンと共に捕まってしまう。

ところで、ゼントラディー軍には人類の他に敵がいた。メルトランディー軍だ。

ゼントラディーとメルトランディーは同族でゼントラディーが男、メルトランディーが女に当たる。

つまり同族が男と女に分かれて争っていたのだった。

遺伝子工学の発達により、クローンで増殖できるため、彼らの世界では男と女が愛し合う必要がない。

キスを見せただけでデカルチャー!と衝撃を受ける兵士達。彼らには文化がなく、戦いが生きる目的なのだ。


輝達は両軍の間隙を縫い脱出しようとするが、フォッカーは輝を守って戦死。

逃げ出した輝と未沙はミンメイとも離れ離れになり、死に絶えた星に不時着する。

なんとそこは地球だった。ゼントラディー軍との戦いで地球は既に滅亡していたのだ。

2人は失意の中地球を彷徨い歩き、古代遺跡にたどり着く。そこでゼントラディー・メルトランディーと人類が元は同族であったと知る。

漂流中、輝と未沙はお互いを理解し、次第に距離を縮めていく。

その後、なんとかマクロスに帰艦して、生存していたミンメイと三角関係に陥るが、修羅場の末、輝は未沙を選ぶ。


ついに最終戦争が始まった。

人類と異星人の祖先が愛した歌詞、メロディ。間一髪、完成したミンメイの歌によって戦争は終結する。

戦場で流れるアイドルソング。

異星人達は歌によって文化を取り戻したのだった。


− ポジティブ恋愛アニメ −



マクロスは恋愛シーンの「間」が上手い。

SF、しかもアニメの恋愛シーンで、間を意識したものって少なくないですか?間っていうのは感情や言葉を露にするまでの「間」です。
観た数が少ないので偏見なのかもしれないし、なきゃないで他が面白ければ別に関係ないんですけど、新鮮に感じました。

劇中で描かれるのは主人公・軍パイロットの「一条輝(ヒカル)」と上官「早瀬未沙」アイドル「リン・ミンメイ」の三角関係。

輝は恋愛に関しては天然。それは物事を省みない元々の性格によるもの。やんちゃ。
恋愛の空気、周りの反応を読まないかっこよさ(悪く言えば自己中)がある。
雰囲気の部分でアニメっぽいわざとらしさ、定型的な狙いがない。反応、表情、しぐさ、など。

上官の未沙はマジメな鬼教官。何事にも一途な性格で、それゆえにフットワークが重い。
親友のクローディアと行き遅れ云々の話をしていたので、年齢は25前後?最大30手前くらい?輝より年上なのは間違いない。

リン・ミンメイは、なんだろーな。小悪魔的な部分がある。
抜け目のない可愛い女の子って感じかな。ミンメイも一途は一途。
前半は子供っぽいんですが、後半から急に女っぽくなってくる。ミンメイはおそらく輝より年下。

で話の流れは、ミンメイと輝が最初に付き合ってて、未沙が後から割り込んでくる(割り込んでくるというかお互い相手のよさに気づく)。
「ミンメイは死んでしまった」と覚悟していた輝は、傷心のまま漂流先で未沙といい関係になり、最後まで行ってしまった。
(ミンメイとはそこまで行ってない)、しかしミンメイは生きていて、再会。そこで修羅場。

輝は自室で休養中。部屋に飾ってあるミンメイのポスターを剥がそうとする。そこへインターホンが鳴る。「はい」
ドアの前に立っていたのはミンメイだった。輝はふいをつかれて、ミンメイを部屋に入れてしまう。
いつかは切り出さなきゃいけないんだけど、まだきっかけが掴めない。コーヒーを入れる。
「今、けっこう忙しいんだろう?そう言えばあの歌の歌詞は・・・・・・!?」
いきなりミンメイが輝の背中に抱きつく。
「好きよ・・・・・・。あの人との間に何があったか知らないわ。でもね、それでもね、私はあなたが好き」

その頃、未沙は地球で見つけたプレートを手にとり、古代言語で記された文字を解読していた。

「おぼえていますか・・・・・・。目と目が合った時を・・・・・・」

口にしてみると、偶然にもミンメイが歌っていたメロディとぴったり。遺跡に残されていたのは、大昔の先祖が愛した歌詞だったのだ。
未沙は歌詞をメモに書き写し、輝の部屋へ向かう。エレベータで移動中、階の表示を眺める。早く会いたい、という気持ち。
ここから続くシーンは本当に細かい部分に気を使ってる。例えば未沙が輝の部屋に入る時に素でノックしない。ノーサイン。
漂流後の時間の流れを上手く埋めてる。逆にミンメイはインターホンを鳴らして、輝が出てきても部屋になかなか入らない。気構えがある。
ここから始まる修羅場のシーンが好きなんです。いや、修羅場が好きなんじゃなくて。修羅場はいや。怖い。「修羅場の見せ方」が好きで。

入れっぱなしで溢れたコーヒー。抱きつかれたまま、輝はミンメイに別れを告げようとする。

「ミンメイ・・・・・・僕は!」

そこへドアノブが回る音・・・・・・。ギッと扉が開き、未沙が登場。2人を見た瞬間、アッ、と一瞬驚き、後ろ手ですばやく扉を閉める。
ミンメイは輝の背中に抱きついたまま。未沙に気づいた2人の表情。目がぐっと見開く。「少佐・・・・・・!」と輝がつぶやく。

未沙の表情が印象的。やや目を潤ませじっと2人を見つめ、目を伏せる。それから落ち着いた声で

「どういうこと?」

声優の演技、それから雰囲気がツボにはまりました。感情を殺した部分がよかった。

「どうって・・・・・・」(by輝)

「これが何だか覚えている?」

「あっ、ああ・・・・・・」(by輝)

「遺跡の街で見つけたプレートよ。これを解読してたらあの曲の歌詞みたいだって分かったから・・・・・・」

「あなたに最初に確かめてもらおうと思ったのに・・・・・・!」

顔を伏せ、手をつく。ややわざとらしい、かも。計算とまではいかないかもしれない。とっさにしてしまった感じ。
輝の顔がこわばる。何かに気づいたように、ぐっと目を見開き、言わなければ、と決心する。

「ちょっと待って!違うんだよ!それは、君の、誤解・・・・・・」

ミンメイショック!「違う、だなんて・・・。誤解だなんて・・・」

「あんまりだわ・・・・・・あんまりよ!」走って部屋を飛び出してしまう。確かにあんまりだ。
この時、かすかに、ですが、未沙はちらっと横目でミンメイを見てる。目線が超シビア。スタッフ凝り過ぎ。

ずっーと思ってたんですけど、三角関係の修羅場で「違う」「間違い」「誤解」そういう言葉が出た時に、
その場で「誤解ってどういうことよ!」ってキリキリ怒るのはズレてる気がする。怒るかなあ?口に出して怒れない人の方が多いと思う。
冷めません?ああそう、みたいな感じで。「お前いらん」って言われてるようなもんだし。
で、逆に考えてここまで煮詰まって、現場にいるのは相手を「信じてる」もしくは「信じたい」んだから
ミンメイの「ショック→泣き怒り→飛び出す」は自分が勝つって信じてたんなら、想像に難くない。

輝は思わず「ミンメイ!」と叫んでドアノブに手をかけ・・・・・・ないで、止まる。未沙は下を向いたまま。
修羅場のカメラワークが凄くいい。ミンメイを追いかけようとして、輝が振り返ってドアに向かう。
やや下から捉えて、ミンメイと輝の動きを心持ちスローで見せてる。運命の分かれ道、心の流れ。

その後はドアの前からの視点で、輝の表情のアップ、後ろで手をついて下を向いている未沙を映す。
ちょっといちゃもんになるんだけど、実写のドラマで修羅場見てて緊張感がないのは、
役者に問題があるかカメラワークが悪いかどっちかだと思う。音は狙わない限りそれなりの雰囲気のを選ぶだろうし。
緊張感が大切。一挙手一刀足、或意味、武術の立会いのような。

立ち止まる輝に未沙が追い討ち。

「・・・・・・どうしたの?せっかくまた会えたのよ!遠慮しなくていいわよ!追いかければいいじゃない!?

「同情なんて・・・、された方がみじめよ・・・!」



最後は涙声。一字一句そのまま言う人はいないだろうけど、ニュアンス的に同じことを言うか、言わないか、微妙なセリフ。
もう行ってほしくないのバレバレ。プライドが邪魔して「行かないで」とは言えない。
不器用やなー、と同時にめんどくさいなー、とちょっと思った。でもマジメで一途ってのはそういう部分含みえると思う。切り離せない。
マジメって適当に言い過ぎかな。固い、軍人の父親の影響を受けつつ戦争で育った人物の造詣として。

未沙は一途であると同時に、男を取られる!と思った時は強い攻撃本能が働く人。
取り合いしたら土俵に上がってくるタイプ。元々ミンメイと輝が正式に付き合ってて、隙間に割り込んで奪ったのは自分も分かってる。
でもいざ勝負になったら易々と引かない。平和条約締結の場でミンメイと再会した時もじっと見据えて引かないし、
そもそもさっさと引く性格ならあんなシーン見せられて面と向かって「どういうこと?」とか言えない。あらゆる意味で怒らせると怖いタイプ。
蠍座の女!って感じですね。ごめん最後は聞き流して。

三角関係の修羅場のよさって「3人のこれから」が同時に動き出すところ。
三国志で「桃園の誓い」ってあるんですけど、それと似たように心が動く。なかなかないと思うんです、そういう状況って。
あともう1つの凄さは、逃げ場がない極限状況にあること。ホラーだ、ホラー。
もちろんごまかすって選択肢も出てくるだろうけど、そういうのも含めて、その人の本質を見せるのに良いシーンだと思う。
創作における修羅場の効用。ただこれは創作だから言えるんで、現実のはなるたけ見たくないです。見たくないよそんなもん。

輝は結局追いかけない。「そんなんじゃない!そんな気持ちじゃない・・・!」ときっぱり否定して、未沙に自分の思いを伝える。
ここまでずっーと優柔不断だったんだけど、決める時はビシッと決める。ここしかない。

「誰もいない地球を2人でさまよい歩いて・・・、なんとかマクロスに戻って来れて・・・、街の中でミンメイの歌を聴いた時・・・」

「スクリーンの中の彼女を見た時・・・、わかったんだ」

「いつまでも側にいて欲しいのは、『君』だって、こと」

「今でもそのつもりだ」

未沙はまだ下を向いたまま。信じたいがまだ完全に信じられない、という表情。
考え込んで、目を伏せたまま、やや低めの冷たい声で尋ねる。

「・・・・・・本気なの」

輝は即座に答える。迷いがない。打って変わって落ち着いた声。

「いつ死んじまうかも分からないけど、こんな僕で、よければ」

未沙の目から涙が溢れる。うっ・・・うっ・・・と声が漏れる。

「どうしたんだろう・・・、おかしいね・・・。涙が止まりませんよ・・・

「輝」「未沙」と呼び合って抱き合う。三角関係に終止符。ベタ足インファイトを挑んだ未沙のゴリ押し勝ち。
つか、冷静に考えれば部屋でブッキングしたからややこしくなったのかな。2人だけなら輝がそのまま断って丸く収まった気がしなくもない。
(割とリアルでも恥ずかしいこと言う方なんですが、「涙が・・・」のセリフは個人的にちょっと恥ずかしい。熱いなー。)

2人が抱き合う中、非常召集がかかる。平和条約は早々に破られてしまった。これまでにない大規模な戦争がはじまるのだ。
人間の切り札はミンメイに歌を歌わせること。異星人はミンメイの歌に忘れていた何かを感じていた。
ゼントラディー人に古くから伝わるメロディ、人間とゼルトランディー人共通の祖先が残した歌詞、ミンメイの歌声。
3つが組み合わさった時、戦争を終わらせることができるかもしれない。

「今のミンメイさんに歌を歌わせることができるのは、あなたしかいないわ」未沙の忠告で輝はミンメイは探しに行く。
たぶんここにいるだろう、見当がついてたのか、展望台に登る。いた。ベンチに腰掛けて、下向いてる。

足音。振り向いて輝に気づいたミンメイは「私のために来てくれたのね」と敗者復活を期待してる。
輝はその期待を裏切って「君に・・・この歌を、歌ってもらいたい」と伝える。ミンメイ切れる。当たり前。

「なによそれ!なんで私があの人の見つけてきた歌を歌わなきゃならないの!

本当に正直。これまでの経緯と修羅場過ぎてすぐの状態で追いかけて行ったら誰でもそう思う。

「そんなもの歌ったって、勝てる見込みなんか、ないじゃない!それより一緒にいて、輝。どうせ死ぬなら私と一緒にいて」

「僕らだけの問題じゃない。マクロスに乗っているみんなのために・・・」

立場的に「お前が言うな」ってセリフですけど、非常事態だからそんなこと言ってられない。

「そんなの関係ないじゃない!どうして世の中にあなたと私だけじゃないの?あなたと私・・・みんな死んじゃえばいいのに!」

その瞬間、輝がビンタ!軍人で身近な人間の死を見て来た輝からすれば、許せない一言だった。
殴られたミンメイは、きっ、と鋭い視線で輝を睨む。勝手なことばかり言って、という気持ちだろうか。
しかし輝の表情を見て、怒りが消える。輝は拳を握り締め震えていた。

「先輩(フォッカー)だって、柿崎だって、みんな・・・・・・死んじまったんだ・・・・・・。やりたいことだっていっぱいあったろうに」

君はまだ、歌が歌えるじゃないか!

輝の一言でミンメイがハッと気づく。そして、少し考え込む。もう一度輝の顔をちらっと見る。
輝は歌ってくれ、と期待感を込めた表情でミンメイを見てる。そこでミンメイが何か言おうとする。言葉が出かかる。
でも言わない。言葉を飲み込んで、左下に目を流して、哀しそうな顔をして、ふう、と一息ついて

「ごめんね、輝。私どうかしてた。自分から好きで、この道選んだんだもんね」

「ここで歌わないと、死んじゃったお父さんやお母さん浮かばれないわ」

「私歌うわ、思いっきり!」

このシーンが最も印象的。ほんの一瞬に濃密な心情の流れを感じる。輝の言葉じゃなくて、表情が決定打になってる。
輝が未沙に伝えた言葉。その匂いをミンメイは輝の表情で直接感じた。輝はまるごと自分ではなく、自分の歌を期待してる。
そこで初めて「もうこの人が自分を本気で好きになることはない」と悟って、諦める。諦めが輝への気持ちをつなげるための言葉を飲み込ませた。

大衆に表現することによって生まれるイメージのギャップはミンメイ自身が1番よく分かってる。(前半の出会いでそれが描かれてた)
その上で、アイドルであることの辛さを受け入れて、プロ意識を取り戻して、自分の意志で歌を選ぶ。

会話も秀逸。このシーンは言葉通りに心情が流れてない。
「ごめんね」「好きでこの道」のセリフは、口調も考慮するとたぶん半分は心が別の場所にある。
でも輝は気づいてない。自分への思いを吹っ切る「さようなら」の意が見えてない。すげー切ない。と同時にミンメイは強い。かっこいい。

もうこの演出大好き。これがなければ、この映画、恋愛部分は好きじゃなかったろーな、ってくらい。
恋愛の「間」と、別れの不条理、大衆に表現することを選んだ人間の切なさ、強さ、それらがきちんと描けてる。
元々ミンメイからしてみれば、勝手に死んだと思われてて、いない間に違う女とくっついて、それで「恋敵の訳した歌を歌ってくれ」だし。
怒るのは当然なんだけど、だからと言ってその人を心底嫌いになったり、諦められるかって言ったら問題はもっと広くなるわけで。
用いられてるセリフ回しはアニメ的な、ディフォルメされたセリフ。でも細かい演出で感情の機微を表現して、どこか現実感がある。
今まで味わったことのない不思議な感覚でした。

ついにミンメイはマクロスの真中で、ステージ衣装を身にまとい歌う。音声発信、宇宙ライブ!


− ラスト5分を駆け抜けろ!−


ラスト5分は壮絶。結局ミンメイの歌で戦争の帰趨は決し、文化を憎むボドルザーグ(異星人の親玉)は倒されます。


愛・おぼえていますか


前奏

「私歌うわ、思いっきり!」を受け、輝が歌詞を差し出し、ミンメイが受け取る。
愛・おぼえていますかの前奏。



ミンメイがマクロスのステージ台に立つ。手を振り上げ、歌う姿勢に入る。



輝はヴァルキリー(戦闘機)に乗り込み、発進体勢。



未沙が発進準備を整える。計器のチェック。



ヴァルキリーがマクロスの脇から吊るされた形で出てくる。発射台が伸びきり発進。
宇宙にジェット噴射?の跡が残る。ヴァルキリーが飛び立ち、駆け抜けるシーンにミンメイを横から捉えたショットがかぶさり、歌が始まる。

今 あなたの声が聞こえる ここにおいでと 寂しさに負けそうな私に

進むマクロス。振り付けを完璧にこなし、歌いつづけるミンメイ。
カイフン(ミンメイの兄、マネージャー)が音響装置を操る。



今 あなたの姿が見える 歩いてくる 目を閉じて 待っている私に

戦場で戸惑いが起こる。メルトランディー・ゼントラディー両方の兵士達が立ち止まる。
マックスとミリア(メルトランディー)が人型戦闘機に乗り込もうとする場面。



ミリア「これは?」

マックス「ミンメイの歌だ!」

昨日まで 涙でくもってた 心はいま

腕をふりあげ、サビ直前を演出。ホログラム映像で眺めるブリタイ(ゼントラディー)。
「不思議だ・・・この歌」「ずっと昔に聴いたような気がする」

おぼえていますか 目と目があった時を おぼえていますか 手と手が触れあった時

左右にステップを踏み、アイドルノリで踊る。ブリタイの側近が述べる。
「分かりました、私達の遺伝子提供者のカールチューンが呼び覚まされているのです」

それは初めての 愛の旅立ちでした I LOVE YOU SO

ブリタイはミンメイを見つめ、つぶやく。

「50万周期の時を超え・・・・・・」

「我々にも・・・文化がよみがえるのか・・・!」



I LOVE YOU SO・・・・・・で、ミンメイのアップからカメラが引く。

砲撃を受けるマクロス、艦内の一部が破壊され、中にいた人々が下敷きになり死ぬ。

間奏

マクロスに通信が入り、スクリーンにブリタイが映る。

「ジンゼムアドクラス艦隊よりマクロスへ、これより貴艦を援護する」

グローバル艦長・未沙は驚愕。

「え!?」「援護・・・・・・!?」

側近が説明。「プロトカルチャーの文化を失うわけにはまいりません」

ブリタイが各艦隊に呼びかける。

「リン・ミンメイの歌を聴く全ての者に告げる」

「我らの敵はただ1つ、ボドグ・ボドルザを倒し、再び、文化を、取り戻すのだ!(エコー気味)」



ブリタイ援護の報を聞き、自分の歌が通じた嬉しさに顔を綻ばせるミンメイ。
胸に手を当て、感動をかみ締める。しかし歌のパートが始まる瞬間、すっとアイドルの顔に変わり、曲に入る。

今 あなたの視線感じる 離れてても 身体中が暖かくなるの

共闘するゼントラディーとメルトランディー。
ボドグ・ボトルザの元にも歌が届いていた。ボドルザは艦内スクリーンを凝視してつぶやく。(ボドルザのアップ)

「これがリン・ミンメイの歌か・・・・・・!」

今 あなたの愛信じます どうぞ私を 遠くから見守ってください

出撃するマックスとミリア。合図を交わす。ミサイルの海を輝のヴァルキリーが駆け抜ける。



昨日まで 涙でくもってた 世界はいま

各艦隊がボドルザ艦に攻撃をしかける。レーザーが飛び交う。ホーミングミサイル連射!

おぼえていますか 目と目があった時を おぼえていますか 手と手が触れあった時

ボトルザの反撃で各艦隊が火の海に。下方からマグマのように炎がほとばしる。

それは初めての 愛の旅立ちでした I LOVE YOU SO

乗りきったブリタイ艦は主砲をゆっくりと開く。ちりちりと静電気のような光の筋が飛び散る。
エネルギー収束、発射!ボドルザ艦のドテっ腹に穴が空く。

もう 1人ぼっちじゃない あなたがいるから

マクロス最大戦速!ブォッとエンジンをふかして強引に穴へ突っ込む。
リズムに合わせて極限まで描き込まれたマクロスの一枚絵が挿入される。

おぼえていますか 目と目があった時を おぼえていますか 手と手が触れあった時

艦内(食物繊維のような)に侵入したマクロスはひたすらツタを突き破り進んでいく。
少し行ったところで胸部、腕部、いたるところからミサイル発射!
無数のミサイルはそれぞれ糸が伸びるように放物線を描き、奥にぶち当たり爆発!進路は開かれた。

それは初めての 愛の旅立ちでした I LOVE YOU SO

旅立ち・・・のドラムに合わせて、ゴゴゴゴゴ、の轟音と共に穴からマクロス浮上。穴が小さいため完全には抜けられず、浮上中に傾く。
ここから先はヴァルキリー隊の出番。未沙がブリッジから輝のヴァルキリーを見る。
輝は人型形態(ヴァルキリーは変形します)で未沙に敬礼し、一瞬で再び戦闘機に変形、一機のみ、全速力で最深部へ飛んでいく。

もう 1人ぼっちじゃない あなたがいるから もう 1人ぼっちじゃない あなたがいるから

リズムに合わせてミンメイの腕がクロス。マイクを握って歌う横顔にヴァルキリーが映る。
未沙が通信を入れる。「メインサービス、エーワンスリースリー、ジーワンシックスワイ」
報告を受け、輝はレバーを倒しサブのエンジンを使う。さらにスピードを増すヴァルキリー。

そのままスピードを落とさず細い通路に侵入。変形し、十数発のホーミングミサイルを一度に発射!
(ここ、一瞬違和感あったので止めてみたらミサイルにタコチューハイが混じってる!これはちょっと好きじゃない)

トラップを避けながら、開いた出口へ突っ走る。爆発の煙をものともせず進む。
おそろしく巨大なボドルザ(戦艦よりでかい)の元へ左下からギュイン!とすっ飛んでいき、スクリーンの前で止まる。
ミンメイをバックにしているため、ヴァルキリーが小さく見える。ボドルザが叫ぶ。

「ウオオオオオオ!プロトカルチャァァァアアア!!!」

人型に変形、ガトリングガンを構える(スロー)。ありったけの弾をボドルザに打ち込む!
ダダダダダ!ボドルザは顔面を撃たれ、断末魔の叫びを挙げ絶命・・・。辺り一面にホドルザの体液がほとばしる。

歌い終わったミンメイはすっと顔を下げ、空を見つめる。


全てが終わった後、輝は未沙へ連絡する。

「スカルワンよりデルタワンへ。任務完了。これより帰艦します」

未沙が答える。

「こちらデルタワン、了解・・・」

戦争が終わり、ゼントラディー・メルトランディー・人間達の歓喜の叫びが起こる。

マクロス艦の中で、未沙とミンメイが見つめ合う。未沙の表情が複雑。
自分が輝を奪ったこと、奪われたミンメイにラブソングを歌わせたこと、にも関わらずミンメイが完璧に歌い切ったこと。

しばらく緊張が続き、やがて、ミンメイが歌詞を頭上に掲げ、目を閉じる。敬意、感謝の気持ち。
アイドルとして、成長させてくれて、再び生きがいを与えてくれて、ありがとう。
未沙はそれを見て首を振る。いいえ、そんなことはない、という風に。

クローディアが呼びかける。「結局なんだったのかしらね、あの歌」

未沙が答える。「ただの流行歌よ。何万年も前に異星人達の街で流行った、当たり前のラブソング」

ミンメイは振り返り、リズムを取りつづける。もう目の前にはファンしか見えていない。暗転。

エンド。


マクロスは戦争をリアルに描こうとした作品じゃないし、演出の比重は恋愛寄り。というかほとんど恋愛。7割恋愛。
でも、劇中では仮にも戦争なわけで。フォッカー、柿崎と主人公につながりのある人物の戦死を描いてる。
戦闘シーンではややスプラッタな描写で死を意識させているし、緊張感を保ってる。
そうやって戦争の匂いを積み上げて来た中で、歌謡曲と戦争を一緒くたにして、戦況を決定付ける表現まで持っていくのは凄く難しいと思う。
ようするに、普通にやったら100人映画観てて80人くらいは「バカだ」「そんなわけないじゃん」「つまんない」で白けてしまう。
マクロスはそのレベルをクリアしてる。半分以上の人がこのシーンに見入るだろう表現力がある。そこがまず凄い。
「企画勝ち」つーレベルじゃない(元々は企画ありきで始まったそうですが)。それぞれがしっかりして、ぴったりはまらないとシーンが成り立たない。
またそうやって生まれるギリギリの感動はたぶんアニメでしか表現できないこと。想像してみて、いくら費用があっても実写じゃ不可能に近い。
つまり、アニメの特性を存分に活かして、製作者が観客に対して真っ向から勝負してる。

話的には異星人の男女+人間が殺し合いしてて(だから厳密に言えば戦争云々の話じゃない)歌で仲直りさせる話、
つまり、ストレートに捉えれば男と女が憎み合って何になるの?ということ。戦争よりも、もっと日常的な、身近な範囲の話から掘り下げてる。
いい歌ってのは大事ですよね。歌じゃなくても映画でも小説でも絵でも。心を動かすもの。デ、デカルチャー、みたいな。
心に染みる歌ってのは誰でも1つはあると思うけど、それ聴いた後で、マジで戦争したくなったり異性を心底憎んだりってありえないと思うんで。
むしろそういう負の感情を消す効果を持っていると思う。マクロスまで大規模にはいかなくても。

えー、ちょっと外れた話になります。60〜70年代が好きって話。なぜか惹かれてしまう。
自分が60〜70年代好きなのは、熱そうだから。ごった煮てそうだから。たぶん信じてた、から。
例えばロックなんかでも、信じてるというか、音楽が世界を変えることを。
それがなんかもう凄い。うそから生まれた真って言うのか、音楽で生きてるな、というのが伝わってくる(なんにせよ感じることは感じる)。
もちろん今の人達も真剣にやってるし、信じてるんだろう、と思う。作ってる側は信じてるよな。信じてないと作れないし。
でも60〜70年代は下手したら周りも一緒になってそれを信じてた、もしくは信じたがってたような気がする。
それが作り手と受け手の間で凄いパワーを生み出してる。60〜70年代のパワー。
まあ雰囲気が自分の性に合ってるだけかもしれないね。でも少なくとも老人の懐古主義ではないと思う。だってその時代に生きてないし。
あの時代を直に生きれた人は素直に羨ましいです。僕は産まれた時もう70年代の最後なわけで。

この映画にも通じる部分があって、それは自分の好きなものに対する誇り。どうだ!って見せてくる。それが凄くかっこいい。
アニメが世界を変える!までは行かないけど、製作側がアニメそれ自体の可能性を信じていたのは間違いないと思う。
そうでないと「当たり前のラブソング」なんてクサイセリフは出てこない。それで戦争を終わらせたんだ、と言えない。
「当たり前のラブソング」ってセリフは当時のアイドルソング、娯楽としてしか見られてなかったアニメにそのまま当てはまる。
当時は「金出してアニメ映画観にいってもな」大げさではなくそれくらいの雰囲気だったと思う。
誰もアニメに深い感動を期待してなかったし(同年撮られたのは『風の谷のナウシカ』)、ジブリ映画の爆発的な観客動員なんて夢のまた夢だった。

挑戦状。アイドルソングで何が悪いの?ってことで。お前らそれで感動させたる、つー姿勢。
姿勢だけじゃなく、当時(84年)のアニメーションとは思えない描き込みと戦闘シーン、アイドルソングと映画音楽を両立させることによって、
実現に近づけてる。しっかりした演出に裏打ちされた自信があって、自信に裏打ちされた演出がある。両者は切り離せないものだと思う。
感想は、作った人に敬意を表する!って感じです。

一見めちゃくちゃナンパってるけど、根底に硬派な要素が溢れてる。
日本アニメの80年代はホラー映画とロックの60〜70年代と同じ匂いなのかな。
実際自分が挙げた作品も「走れメロス」以外は全部80年代だし。

そんなわけで「マクロス〜愛・おぼえていますか〜」は多少人を選ぶ映画だと思いますが
(前半のアイドル描写、だらだらデートシーンがキツイかも、あと輝の声がヘタウマ)
興味が湧いた人は見て欲しいな。「何らかの誇り」を持って作られる作品が大好きです。




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