18:00前――
何の変哲もない平和な下校時間が訪れる。
そこにはディノアクアリウム、地下鉄と続いた事故の爪痕などあろうはずもない。
皆に等しく与えられた安らぎの時間。
だが、賑やかな生徒達の笑い声の遥か上空、
誰にも気づかれない場所で物々しいヘリが浮かんでいた。
中の男の服はWARMの制服。
三宮芳弘が「カイトウ」と呼んでいたクドイ顔の男だ。
無線で連絡を取り合う三宮芳弘と海藤。
一般人は巻き込むなと言う三宮芳弘の言葉に頷いた海藤がモニターに目を向けると、
そこには長い髪の少女の姿があった。
「ターゲット 麻宮アテナ」
何かが静かに動き始めている。
アテナは夕日で赤く染まった校舎をゆっくりと歩いていた。
もうすっかり忘れていたのだが、ペンダントを柏崎理香に返そうとしているらしい。
そしてそれを口実に仲直りがしたいというのがアテナの願いだった。
話は逸れるが、途中、教室に鎮狼冬(ちんろうとう)という
拳崇のライバル留学生がいるのだが、鎮元斎の孫か何かだろうか?
何やら彼は彼で白鳥ミホという女生徒をストーキングしているらしいが
本筋とは関係なさそうなうえに興味もないので見なかったことにする。
柏崎理香を捜していると、どうやら彼女は端末を動かすためのブルーディスクを失くしてしまい、
それを探しに走り回っているらしい。
そしてなにやらディスクはブルーだけではなく、レッドディスク、イエローディスクと存在して、
それらが揃って初めて何に使うのかまだ解らないが理科室の端末を起動出来るらしい。
柏崎理香を追っても追っても行き違いになるアテナ。
追っても追っても追っても追っても行き違いになるアテナ。
柏崎理香とディスクを追い、再びのアテナの
行き過ぎたお遣いが始まった。
正直、
かつてないほどにやる気を失ったのだが、
熱い声援(幻覚)に応えてもう少しだけ頑張ってみることにした。
千里眼、メトリー、テレポートで見つけろよ! 徒歩で聞き込みかよ!
〜果てしない聞き込み(フラグ立て)の果てに〜
もう嫌だ! 校内を必要以上に行ったり来たりするのはもう嫌だ!
部活の校内練習でもしているかの如く全力で階段を昇り降りして柏崎理香を捜すアテナ。
この女、どこまでもタフ。
だが
プレイヤーはそこまでタフではないことを夢工房には理解して貰いたかった。
結局どこまで行っても柏崎理香とは会えず、最後は占いが得意のヒロという男子生徒の
「柏崎さんと会いたいなら、二階コミュニケーションスペースに行くといいよ」
という一声によって目的地がはっきりとする。
どうやら
超能力より占いの方が強いようだ。
いい加減にして下さい。
移動した二階コミュニケーションスペースからは、
別の友人に手を引かれ下校する柏崎理香が見えた。
呼び掛けるが柏崎理香はアテナの名を呼べない。
柏崎理香は明らかにアテナに対し怯えていた。
屋上でひとり嘆く。
「なんで私ばっかり……」「もう嫌だよ……」
露骨なプレイ時間引き延ばし行為にアテナは疲れ果てていた。
だが現実は否応なくアテナに襲い掛かる。ピエロのビジョン。アストライオスが、来た。
まだ攻撃の指示は出していない。
三宮芳弘が荒々しく無線で叫ぶ先で、爆発の余韻―― 煙が濛々と立ち上っていた。
「ククククッ、タンタロスが待ってるよ。完成された君に会いたいそうだ」
アテナの目の前に出現するアストライオス。
アストライオスの今度のプレゼントは、三階、第一理科室に仕掛けられた、さらに強力な爆弾。
その言葉に弾かれるままに唇を噛み締めてアテナが走る。
だが、ピエロのゲームがそう単純なはずはない。
そのまま第一理科室に入れば、その時点で爆弾は発動する。
アストライオスが愉快気に説明したルールは、
爆弾は第二理科室にある端末を操作することで解除出来る、
だが端末を操作するにはディスクが必要という物だった。
かくして、先の生徒達の話にも出ていた青、赤、黄色の三つの失われたディスクを求め、
アテナは再び校内を走り回ることになった。
もう許してくれ!
もうプレステごと爆発してしまえば良いのに……
そんな後ろ向きな気持ちでポリアテナは走る。
まずは柏崎理香が失くしたというブルーディスクをいつかのように一階、
柏崎理香のロッカーから発掘。そしてまた三階に戻り第二理科室の端末にアクセス。
石灰水を中和するには酸性の液体と塩素系の液体どちらを加えれば良いか?
という化学の問題を解いてブルーディスクだけで難なく解除成功……
と思いきやアストライオスの口から出た言葉はあんまりだった。
「おっと間違えた。それは起爆スイッチだったぜ。時限装置が動き始めたぞ!!」
結局、三つ探させるようだ。
またしても果てしないお遣いが予感されたが、
スタッフがもう飽きたのか残り二つのディスクはすぐ近く、三階に二つとも存在した。
即刻、端末にアクセスするアテナ。
しかし何も起こらない。
どうやら私はこの後に及んでまだ尚、このゲームを甘く見ていたようだ。
そう、今度は
何個も何個もある教室から
それぞれのディスクの合う端末を探し出さなくてはならないらしい。
結局行き過ぎたお遣いだった。
…………
〜しばらくお待ち下さい〜
色々あって爆弾を解除し、屋上でアストライオスと対峙するアテナ。
「ご苦労さま、アテナ」
ホントにな。
狂気の表情を浮かべてピエロが語る。
爆弾はまだある。
何故君が何事もなくWAD傘下の病院から解放されたと思う?
何故ペロプスとの接触を黙認している?
全てはアテナの潜在能力を引き出すため。
ならばピエロはピエロらしく、道化の役割を果たさなければならない。
「最後の爆弾は……この俺だ!!」
その瞳に一切の哀しみを浮かべることなく、アストライオスはアテナに襲い掛かった。
もう戦うしかない。
その言葉を引き金に、アテナに最後の、そして最大のサイコパワーが発現した。
サイコボール |
それを受けながらも尚、歓喜の表情を浮かべるアストライオス。
「さあ、踊ろう! 死の舞踏を!」
対して、隕石のように巨大なアストライオスのサイコボール。
ナメック星が吹き飛ぶんじゃないか、これは。
だが、それをすらサイコシールドで受け切ったアテナの力は強大すぎた。
「……ククッ……、さすがだよ、アテナ。このオレじゃお前には勝てないってわけか……」
最後の哄笑を上げるピエロ。
アテナが打ち込んだサイコボールLv.2はアストライオスを止めるには充分だった。
仮面が割れ、剥き出しの眼光が露になる。後に、爆発。
黒い染みと成り果ててもその瞳はまだ笑っているようだった。
狂った運命に操られたアストライオスの最期に軽い感傷を感じてしまう名シーンだが、
結局爆発したのは良かったのか? 大丈夫なのか?
巻き込まれ、女子トイレにまで落下したアテナを離れからスコープが捕らえる。
アストライオスの消滅を受け、三宮芳弘が動いた。
アストライオスを倒すほどの能力。弱らせて捕らえるしかない。だが油断すればやられる。
海藤に下した指示はアテナへの武力を持った攻撃だった。
トイレから出たアテナにロボが襲い掛かる。
逃げ切れないと判断したアテナの選択は戦闘だった。
すでに凶悪な破壊力を持つサイコボールの前に、ロボですら沈黙する。
だが地面が崩れさらに落下するアテナ。
外は生徒の避難でごった返していた。
“校舎にテロリストが立て篭もった”それが海藤のシナリオ。
避難する生徒の中には柏崎理香の姿もあった。
ロボをすら生身で打ち倒したアテナはすでに兵器以上の存在。
焦りでイラついた口調でWARMと話す三宮芳弘の姿はもう教師ではない。
かつて教師だった男の口から出た「麻宮アテナ」という言葉は、
柏崎理香に決意を与えてしまった。
放送室のスピーカーを通じて響いたアテナの悲鳴を耳に、柏崎理香の足は駆け出していた。
ついにWARMに追い詰められたアテナ。
縺れる足。銃身を眼前に向けられ、体が動かない。動けない。
恐怖と、度重なる戦闘でアテナの疲労はピークに達していた。もう、逃げ場はない。
そう思われたその時――!!
ナイトがキター!! |
そう、完全に存在を忘れていたが、
学校が舞台ということは当然、椎拳崇も登校しているのである!
むしろ今の今まで登場せず、かつ何の違和感もなかったことが間違いだったのである!
寝ぼけ眼でのほほんと現れる椎拳崇。
アテナの悲鳴。目の前に銃身。取るべき行動はひとつだった。
「わいは、アテナのナイトやさかいな!!」
さぁ今までひた隠しにされて来たKOF譲り(予想)の椎拳崇の中国拳法!
その奥義がついに炸裂する!!
のかと思いきや通気口のような所から
冷静にアテナを逃がす拳崇。
キレ者だ。
そして再びその背中に闘気が篭る!
椎拳崇出世編 完
無事、外へ脱出したアテナだが、そこは絶望の空間でしかなかった。
屋上で待機する三宮芳弘と海藤。そして周囲を囲む無数のWARMとロボ達。
もはやアテナに打つ手はない。
だが、三宮芳弘達はアテナの力を恐れすぎていた。
海藤の掛け声で一斉に射撃が行われる。
耳が壊れそうな銃撃音の向こうでサイコシールドが展開。
撃ち込んでも撃ち込んでも届かない銃弾はまた彼らに焦りを生ませた。
しかし、アテナのサイコパワーも確実に尽きようとしている。
それを冷静に見抜いた三宮芳弘が銃撃を終わらせる。
無数の銃痕が刻まれた地面の中、アテナは膝を突く。しかし無傷。
そこに駆け出した柏崎理香の背を、WARMの銃弾が貫いた。
最初に叫び声を上げたのは三宮芳弘だった。
一般人を巻き込むなとあれほど言った。
だが海藤は軍人。麻宮アテナの力を見た今、多少の犠牲は厭わない。
衝突し、横暴を振るう海藤の耳にもう一つの悲鳴が届いたとき、
そこは何もかもを吹き飛ばす、眩い光に包まれていた。
そして、
彼女の名を叫び、ただ一人、光の中へ飛び込んで行く椎拳崇の背は、
ギャグにしか見えなかった。