「やぁ！ 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ！」
「…………」
「……なんて言ってみても誰もいない」
「…………」
「……遅いなぁ、ロバートさん達。何してるんだろう？」
「…………」
「……今日はもう帰るか」
「いやまぁ、ちょっと待った！
もうわざわざ説明も要らへんやろうけど、
わいがNBCの美形キャラ、長い眠りから目覚めた猛虎ことロバート・ガルシア様や」
「あ、ロバートさん！」
「ギリギリセーフ、まさにギリチョンやで、ホンマに。
わいのドラテクがあれへんかったら危うく間に合わへんようなるとこやったわ」
「……ギリチョンは古いですよ。
ところで、右京さんはどうされましたか？」
「あ、ドラテクっちゅうんはドライビングテクニックの略で
通の間でのキャッチワードみたいなもんやな。
右京さんはもうちょい待ったってくれ。今、忙しいさかいな」
「…………」
「あ、右京さんや」
「サムライスピリッツの美形キャラ、橘右京さんだね」
「それから八神の奴もPLAYMOREの人と暴走庵になるかなれへんかで
一悶着起こしとる真っ最中やさかいに遅れるかも知れへんで。
これ以上、暴走すると腰の負担が持てへん言うて何やアイツ必死なんや。
見ててかわいそうなるくらいやったな」
「……そうですか。NBCの収録も大変なんですね」
「ああ、何やせわしないでホンマ悪いねんな。
今、詰めの作業やかい、Sammyのお偉いさんも収録観に来る言うて
現場は騒乱の渦に包まれとんねや。会議終わったらまたゴマすりの練習やで」
「……はぁ」
「わいはほら？ ルックスがGUILTY GEAR系やろ？
開発のARC SYSTEM WORKSはんもわいに目ぇ付けとるみたいなんや。
何やもうそれこそ飢えた狼みたいな視線ギラギラ感じるねん。
次のGUILTY GEARはソル、カイ、ロバートで売るで！みたいな。
このプレッシャーの中での収録はホンマ難儀やで」
「ああ、サムライスピリッツの新作、サムライスピリッツ 天下一剣客伝やな。
何や魅力的な新システム多いみたいねんさかい、
演技指導だけでえらい体力使うでっしゃろ？
わいも主役張った龍虎の拳外伝んときは大変やったわ。
不破の頭突きで真上に浮くんはホンマ無理やで、実際」
「……うむ」
「それで、アレや。ロケテであんま実力見せすぎてもうたら
製品版で弱体化させられますよってな。
せやかて手ぇ抜き過ぎても弱キャラやいう中傷受けますやろ？
まぁわいらくらいの美形キャラにもなると弱キャラや言うて
使用率下がることは滅多とあれへんねけど、
ほどほどのバランスに気ぃ遣う時期やさかいな。ストレスがかなわんですわ」
「……本雫 末路似たり 我が生命」
「ホンマや」
「すまん、NEOGEO BATTLE COLISEUMについての会合で遅れてしまった。八神だ。
まだ美形会議はやっているか？」
「おぅ、八神。安心せぇ、まだ始まったばっかやで。
で、どや？ 暴走庵の件はひと段落ついたんかいな？」
「そうか、それは良かった。
暴走庵は現状、まだ何とも言えん。
とりあえず強行するならせめてニュートラルポーズの描き換えを要求しているのだが、
連中はコピペの出来ん暴走に価値はないと言い張って聞く耳を持たん」
「そら難儀やな。何やったらわいが代わったってもええで？
ファンもそろそろ暴走ロバートを望んどる頃やろうやしな」
「本当か？ 恩に着る」
「……暴走右京。ふっ」
「……カッ！」
「……！？」
「……！？」
「……！？」
「ど、どないしてん？ アンディ。
そない餓狼１時代みたいな声優不詳のかすれたエコーボイス晒しよってからに」
「みなさん！ 僕は今日、みなさんに言いたいことがあります！
いや、言わなければならないことがある！！」
「な、何だ？」
「アーケード業界はもう駄目だ！！」
「おまっ、いきなり何を言うとんねや！ 藪から棒に！」
「ではロバートさんは衰退の一途を辿る
アーケードのビデオゲーム産業に未来があると！？
2D格闘に未来があるとお思いですか！！」
「い、いやま、それはこれからやろ。
わいらのATOMISWAVEでの展開もまだ始まったばかりやし、
今度のNBCのヒット次第ではビッグウェーブ起こせそうな予感はあるで」
「甘い！ まったく以って見通しが甘い！
じゃあそのNBCがコケたらどうなるんですか！？
というか、もうあのゲームはキャラ選の時点で半分負けているようなものだ！」
「そ、そないなことはあれへんで？
そりゃあ、お前は何や伺い知れへん巨大な力によって
出場出来へんかったかも知らんけども、
他にも魅力的なキャラクターがぎょうさんおるやないかい。
例えば、生まれ変わった龍虎の拳の美形キャラとかやな」
「ぼ、僕の話をしてるんじゃない！
そんな小さな視野の話をしてるんじゃないんだ！！」
「それにもしわいらがコケても右京さんの剣サムがあるやないかい。
確かにまだ生き残っとるサムスピプレイヤーの数は心もとないかも知らんけど、
サムライスピリッツシリーズの安定感は軽視でけへん部分があるで」
「いーや、駄目ですね！
あんな野蛮なゲームは青少年の健全育成を掲げるマダム達が許してくれませんよ！
右京さんだっていつまでも血を吐くだけの芸で
食べて行けると思ったら大間違いですよ！」
「ガハァ！」
「血を吐いた！？」
「では貴様はこれからの俺達美形キャラはどこで生きていけば良いと言うのだ？」
「フッフフフ…… ずばりコンシューマー。家庭用作品ですよ！」
「！？」
「何やて！？」
「いやぁ家庭用ユーザーの方々は今度のKOF NEOWAVEを
さぞかし楽しみにしているだろうなぁ。
みなさんは僕を干されてる見た目も性能も寒いキャラだとお思いかも知れませんが、
実は僕はPS2ではKOF'94RE-BOUT、KOF NEOWAVEと連投が続いて
大忙しなんですよ。Xbox版KOF2002の収録もありましたし、もう大変。
アーケードの方はむしろこちらから見限った？風な感さえありますね」
「闘いの記憶を刻み込め！
いやぁ、広告での僕のスペースも大きいことだし、
このNEOWAVEはかつてない売り上げを記録するだろうね。
ミリオンセラー的な売り上げは間違いないよ」
「いや、そない売れへんやろ。
“記憶”の“憶”の字でわいの顔が隠れとんのが致命的や。
それにNEOWAVEかて元はアーケード作品やないかい」
「シャラップ！ 今の時代はプレイヤーに合わせたモードセレクトがナウなんですよ！
スーパーキャンセルモード！ ガードブレイクモード！ そしてMAX2モード！
どれを取っても魅力的なモードばかりで目移りしちゃうなぁ！
今時モードセレクトもないゲームは駄目だね！ 時代遅れも甚だしいよ！」
「そうか？ モードなぞぎょうさんあったかて面倒くさいだけやろ。
わいはモードセレクト見ただけで頭イタなって来るで、本音として。
しょーもないシステムや。全然おもろないわ。
今の若者の最新流行はアレやろ？ タッグバトル型対戦格闘？」
「プレイヤーの好みにもよるだろうが、互いに違うルールで競って勝ったとして、
それが本当に勝利と言えるのかも疑問符が付くところだな」
「黙れ、若造！」
「わ、若造！？」
「だいたい何だ！ 大の男が暴走庵がどうだこうだと！
別人格の裏キャラの存在は人気キャラの証明なんだ！
REALBOUT餓狼伝説SPECIALの裏アンディは未だ記憶に新しいだろう！？
使用コマンドはギースが使用可能な状態でカーソルを僕に合わせて
B、Cとボタンを押しっぱなしにしたまま決定だ！
それを拒むなどと、贅沢にも程がある！ 冒涜かい！？」
（……おったかいな、そんなん）
「サムライスピリッツシリーズのキャラクターは
さらに修羅に対し羅刹という別人格の裏キャラが標準搭載されている！
つまり別人格のないキャラは人気キャラではない！ 同時に美形キャラでもないんだ！」
「……むぅ、確かに一部頷ける部分はあるが、
そう断ずるにはいささか極論すぎではないか？」
「何を言うか！ そもそも僕達SNKキャラにおける裏キャラクターの起源は
あの大物女優、ナコルルさんにある！
彼女の劇的にキャラクター性が変わるという裏キャラクターがヒットしたがために
SNK世界を代表する超人気キャラクターには代々裏キャラクターが
設定されるようになったんじゃないか！
お前はナコルルさんの人気という事実さえも極論と切り捨てるのか！？
先にも言ったがサムライスピリッツでは修羅羅刹というシステムで
裏キャラクターがついに標準搭載にまで至っている！
あの右京さんだって羅刹になればキャラクター性を一変させた新しい魅力を……」
「…………」
「あ……」
「あ……」
「そう言えば橘右京は羅刹になっても全くと言って良いほどキャラが変わらんな。
似たようなビジュアルの風間蒼月はSAMURAI SPIRITS2 アスラ斬魔伝の羅刹で
水邪蒼月というほとんど別キャラにまで変化し、それがサムライスピリッツ零で
水邪として採用されたことによって新たなファン層を開拓してい……」
「ガハァ！」
「血を吐いた！」
「右京さんが血ぃ吐きよったで！
せ、せや！あかんかったんや！ 右京さんの羅刹は技と色がちょい変わるだけの
ただの数合わせやとか言うたらアカンかったんや！
ただでさえ地味なうえにコスチュームも何の変化もない右京さんはポリゴンになってさえ
手抜きされた力入ってない数合わせのキャラクターやとか言うたらアカンかったんや！」
「ウゴハァ！」
「あ、謝れ、八神庵！」
「右京さんに謝れ！」
「ま、待て！ 俺は事実を述べただけで
数合わせなどと発展した理論展開は行っていない。
それに、貴様等は物事を見る視点がいささか一方的ではないか？
表で充分な人気があればわざわざ裏キャラクターなどを作り出す必要はない」
「なんちゅうことを！」
「おま、お前は何を言っている！」
「だから、キャラクターによって事情は違うだろうが、
表で人気が行き詰ったがために裏キャラクターという言わば反則技を用い、
別の角度から少しでも人気の回復を図ろうという苦肉の策という見方も出来る」
「おま、お前は本当に何を言っているんだ！？」
「せや！ もう何が裏キャラクターやねん！
要は焼き回しの数合わせやないかい！全然おもろないわ！
何やごっつ腹立って来たわ、ホンマ！
さっきは何も言わんと軽く流してもうたけど、
そもそもKOF NEOWAVEのチラシのアレは何やねん！？
何でわいの顔“記憶”の“憶”の字で隠れとんねん！？」
「わいの顔に“記憶”の“憶”の字を刻み込んでどないすんねや！ アホか！
このチラシ作ったアホ出て来いホンマ！ しばくぞ！
天下のファミ通に何載せとんねや！
そら柴田亜美先生かてドッキンばぐばぐアニマルで
わいらをネタにしてくれへんようなるっちゅーねん！！」
「……いやいや」
「ええねんで、わいは！ いつGUILTY GEARに移籍したかて！
Sammyのお偉いさんかて次はソル、カイ、ロバートやて思うとるねんからな！
もう頭キタわ、ホンマ。誰が買うねん、こない寒いチラシのゲームをホンマ。
自分で自分の首絞めとるて解れへんのかいな！」
「……あ、あの、ロバートさん？」
「もしもーし！ カーマンかぁ？
PLAYMOREのチラシ作っとるヤツん住所調べたってくれ！ 家族構成もや！
ちょっとわいホンマ怒鳴り込む勢いやねん。行って来るわ」
「……あ」
「俺も暴走庵の件での話し合いがまだ残っている。
欠員が出るのならこの辺で失礼させて貰おう」
「……あぁ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……僕も、帰るかな」
