留月星良画伯
グリップヒーロー美形会議
「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」




「もうわざわざ説明すんのもそろそろにしときまひょかってな感じやねんけども、
 わいがNBCの美形キャラ、永遠の誇り高きヤングタイガーこと
 ロバート・ガルシア様や」



「…………」




「右京さんや」




「サムライスピリッツの美形キャラ、橘右京さんだね」




「さて、うら若き乙女達を熱狂させる
 そうそうたる美形キャラ三人がすでに揃うてしもたんやけど、
 いやぁ、それにしても暑い日が続きますなぁ。
 わいら美形キャラとしてはUV対策? も万全にしとかんとアカンねんな、これが。
特に一方向からしか光の当たらん2Dキャラはもう紫外線直撃やさかいな! 一方向から。
ホンマ2Dキャラは気ぃつけて貰わんと」


「…………」




「……ところで、ロバートさん、その姿はどうなさったんですか?」




「あ、あれ? 気付いてもた? 気付かれてもうたんかしら?
 いや、アカンなぁ、わいは(笑)
 わいとしたことがついうっかり3Dポリゴンのまま会議に来てもうてこれ、
 気付いたんが会議室のドアノブ触った辺りくらいやったからもう、
このまま行ったれ! 思て。こらわいこっ恥ずかしいわぁ(笑)」


「……はぁ、で、その姿はどうなされたんですか?」




「ああ、これ? これか?(笑)
 これはアレやな、見ての通りわいもついにポリゴン化されたっちゅうことで、
 ついウッカリ3Dポリゴンのまま会議に来てもうてこれ、気付いたんがドアノブ……」



「いや、ドアノブの話は別に良いんですが、その姿は?
 一体、どこの同人ゲームに出演されたのですか?」




「そうそう、最近は同人ゲームのポリゴンも商業顔負けやさかいな。
 わいもつい先日、あんま大きい声では言えへんねんけども、
 ついに大手サークルから男優デビュー…… って、アホかーい!
 この姿はお前、どっからどう見てもKOF MAXIMUM IMPACT 2やないかい!
誰がそういう意味での、隠語としての男優デビューやっちゅうねん、しかし!」


「な、何だって!?
 え、あ、いや、でもMI2のポリゴンはそんなにショボショボじゃないでしょう。
 それじゃまるでハイパーNEOGEO64じゃないですか」



「ガハァ!」




「血を吐いた!?」




「せ、せや! アカンかったや! ハイパーNEOGEO64とか言うた……
 あー、もうこの流れはええやないかい。マンネリはアカンで、アンディ。
 右京さんにももうちょっと血を吐くタイミングを考えて貰わんと。
 今はわいのポリゴン化の謎が解き明かされるっちゅう重要なシーンですやろ?
そこはねぇ? もうちょっと空気読んで貰わんと」


「…………」




「……はぁ、で、どうされたんですか? その姿は」




「ああ、これ? これか?(笑)
 これはアレやな、ちょっとわいの事務所にSNK PLAYMOREはんから連絡が入ってやな、
 是非ともわいをポリゴン化したい! ちゅうことで、MI2の背景としてこう、何ちゅうの?
 大抜擢? みたいな感じでわいもついにポリゴン化やで、アンディ! 右京さん!」






「いやぁ、極限流ブランドはリョウとユリちゃんがおればええんやないかと
 悩んだ時期もありました。でも、地道にやって来てホンマ良かったですわ。
 こう、ポーズもダンディに決まっとりますやろ? 様々な角度から見ても。
 SNKはんもわいのポーズにごっつ感激してやな、
このまま微動だにしないでください言うてくれて、
わいは背景でピクリとも動けへんねんな(笑) ホンマ久々に充実した撮りやったで」


「…………」




「……それで本人が納得されているのなら、
 もう僕から言えることは何もありませんが……」




「ほら、アンディ! 右京さんも、モイスチャークリームUV
 これ配るから、ほら。一人一個な」




「……はぁ、どうも」




「……どうも」




「で、八神はまだなんか?
 これ、わい背景から眺めとったんやけど
 ポリゴンでのあいつの髪型はいつ見ても爆笑やさかいな(笑)
 アンディにも見せてやりたかったで、ホンマ」


「……いえ、僕は別に。
 それであの、八神君のことなんですが、
 今日はKOFからは別の方が会議に参加されたいとの連絡があって……
 もうすぐだとは思うのですが」


「ああ? また紅丸か?
 あいつはちょっと美形キャラとしてわいらと比べたら実際、
 数段ランクが落ちるっちゅう部分が、まぁ…… なぁ?」



「いえ、紅丸君ではなくて」




「皆さんこんにちは! ジョン・フーンです!
 今日はどうぞよろしくお願いします!」




……!?




こ、これは!?




「あ、ジョンさん。もう来られていたのですね。
 よく事故に遭われるそうなので心配していたんですよ」




「ハハハハ! あれ以来、横断歩道には人一倍注意しているからね」




「ア、アンディ……!
 このただ整っとるっちゅうだけで何の個性も捻りもない顔! フェイス!
 うっとうしいまでの長髪! 中途半端な真ん中分け!
 こらお前、スゴい逸材やないかい!」


「フフフ、そうでしょう?
 KOFにもまだまだ美形キャラはたくさん居るんですよ」




「ああ、せやな!
 しかも微妙にリストラされたり復活したりを繰り返しとる所とか何や、
 それでいて復活したらしたで別に特に話題にもならへん辺りに何ちゅうか、
 とにかく逸材やで、この男はホンマ!」


「君知りて 淀める川の澄みはつる 水面に写る 初色の花」




「でしょう?」




「ホンマや!」




「ハハハハ! 何やら盛り上がっているようだね?
 今日は私もこの美形会議に用があってね、仲間に入れて貰えると嬉しいのですが」




「いやぁ、お前さんが逸材やっちゅう話をしとったんや。
 ええで、ええで。真ん中分けもよう似合うとるわぁ。
 やっぱり美形キャラの基本は古来、吉田栄作カットより始まる真ん中分けやさかいな」



「……うむ」




「やっぱり美形キャラの基本はオールバックか真ん中分けですよね! ハハハ!
 それじゃあ、新たなメンバーを迎えた新生美形会議、開始しちゃいましょうか!」




「おお!」




「……うむ!」




「あ、ちょっと待ってくれるかな?
 私は別にここへ会議をしに来たわけじゃないんだ」




「え?」




「あ?」




「……ん?」




「この美形会議というのは、設定上は一応美形キャラなので
 一見人気キャラに見えるものの、実際の人気はしかし十年前ならともかく、
 今やまったくと言ってほど皆無でもはや空気以下のキャラ達が行うものなのだろう?」



……!?




……!?




……!?




「ここへ自ら参加するということは、美形キャラとしては首を吊る行為にも等しい。
 今日は私はちょっとした交渉のために足を運んだわけですが……」




「ちょ、どういうことや、アンディ! やっこさん首吊るとか何や言うとるで!
 新たな美形会議メンバーの誕生やなかったんかいな!」




「そ、そんなこと僕に言われても……」




「そこで、ちょっと話を聞いてくれるかな?」




「は、はぁ……」




「うむ、ここには守護像として、顔はアテナさん、
 そして体は舞さんという素晴らしいフィギュアがあると聞いたんだ。
 それをぜひ私に譲ってはくれないかな?」



「…………」




「…………」




「…………」




「一応、予算の方は多めに用意して来たつもりだ。
 どうだろう? 私に譲ってくれる気はないかな?」




「…………」




「……あれか」




「……あれ、ですよね。どこへ行ったでしょうか?」




「ちょっとその、襖の奥の方やなかったかいな? 上の段の。
 ……あれ案外飽きるん早かったさかいな。
 もうさっさと渡してこの方、お引き取り願いまひょか」







「おおぉ!! こ、これが顔はアテナさん、体は舞さんという
 まさに一分の隙もない伝説のフィギュア、KOF10周年記念、限定版ピンキー!
 い、いくらですか!? よ、予算を超えても良い!
 こんな素晴らしい物を目の前にしては、もう予算に糸目など付けてはいられませんよ!
今後一年間の生活水準を下げてでも私はこのピンキーが欲しいぞ!!」


「何やお前さん、よっぽどアテナちゃんマニアなんやな。
 ほんなら何や、わざわざピンキー目当てにこないな会議に来ぅへんでも
 他にもぎょうさんグッズ持っとるんちゃうんかい」



「もちろんですとも! KOFでお会いする度にサインを頂いていますからね!
 私ほどアテナさんのサインを持っているファンもそうそういないでしょう!
 しかし、このピンキーはそうだな、私のコレクションの中でも
 アテナさんの歯形の付いたチーズと並ぶ特Aクラスの一品と見ましたよ!
ぜひともお譲りして頂きたい!」


「あー、そか。
 ほんならさっさと金だけ置いてどこへなりと帰…… 歯形の付いたチーズ!?
 お前、何やそれ、アホか! お前そんなモン集めるんはファン活動とちゃうぞ!
 その辺の線引きは各個人のマナーによる部分が大きいだけに、
より気ぃ付けて貰わんとあかんデリケートな部分やねんで!
これは同じく人気キャラのわいやから言うんやけども」


「ハハハハ! もちろん私が直接収集したものではありませんよ。
 蛇の道は蛇、とでも言いましょうか。
 あれを落札したときの感動といったら正直、もうチャン君、チョイ君の更生なんて
 どうでも良くなったくらいですからね!」


「…………」




「……本物なんでしょうか?」




「……その辺のおばはんの歯形なんちゃうんか?」




「ところで、金額の方なんですけど、これくらいでいかがですか?
 相場の倍は見積もっているつもりなのですが」




「ああ、もういくらでもええから金だけ置いてさっさとお引き取りください、ホンマ。
 どうぞ、これがわいらの守護像ですわ」








「おおおおおおおお! ついに理想のアテナさんが我が手に!」




……許さん!!





……!?




……!?




……!?




「ちょ…… 右京さんどないしたんでっか?
 右京さん、肺病あるんやさかい、
 そない大声出してもうたら医者のセンセにどやされまっ……」



超・萌ゑる 超・超・萌ゑる 超・萌ゑる 右京




「ちょ…… ホンマ右京さんどないしたんでっか?」




「あの……」




「あ、ジョンさんちょっと待ってください。
 右京さんが何かあるようですので……」




「つまり、右京さんは萌えフィギュア族が抱えとる現代社会の問題を考えるに、
 このままジョン・フーンへこのフィギュアを売って社会的にええもんやろか?
 ちゅうことを俳句に乗せて訴えとるわけですか?」



「……うむ」




「なるほど、確かに僕達は厄介払いばかりに目を奪われて、
 ここでフィギュアを売ることがジョン・フーンさんの人生にとって
 果たして良い影響を及ぼす行為なのか?
 という、教育的見地を見失っていたのかも知れない」


「……うむ!」




「いえ、そうでしょうか?
 私の目にはただ単に橘氏もアテナさんのフィギュアに
 萌えているだけのように映りますが……」



「ガハァ!」




「血を吐いた!?」




「右京さんが血ィ吐きよったで!
 せ、せや! アカンかったや! 萌えフィギュア族とか言うたらアカンかったんや!
 萌えキャラのフィギュアはぎょうさん出とるにも関わらず、
 右京さんのフィギュアはただの一個も出ぇへんことを突付かれたらアカンかったんや!」


「ウゴハァ!」




「謝れ、ジョン・フーンさん!」




「右京さんに謝れ!」




「な、何ですか、あなた方は!?
 話の繋がりがよく見えないのですが!?」




「ちゅうか、よう考えたらわいのフィギュアも全然出とらんやないかい!
 これどういうこっちゃ!?
 SNK PLAYMOREの関連グッズコーナー見てもお前、
 舞ちゃんにアテナちゃんにミナいろはミナいろはいろは……
わいの“わ”の字も出てけぇへんやないかい! これどういうこっちゃ!? なぁアンディ!」


「あ、はぁ……」




「舞ちゃんにアテナちゃんにミナいろはミナいろはいろはて、お前!
 一個くらいわいらのフィギュアが入っとってもバチ当たらんやろ!?
 おらん方が不自然やで! むしろ、もはや。
 そう思うやろ!? アンディ、お前さんも」


「あ、いえいえ、僕のフィギュアは関連グッズコーナーに載っていないだけで、
 ちゃんと出ていますからね。人気商品で、もう」




「……!?」




「何やて!?」




「ええ、ほら、ファンの方が特設サイトも作ってくださってますしね」





ばるぱんさーフィギュア職人


「グリップヒーロー餓狼伝説。
 いやぁ、フィギュアになっても僕は凛々しいなぁ!
 カッ! エイヤッ! イェー!」



「……それでお前さんが納得しとるんなら、
 もうわいから言えることは何もないわけやが……」




「…………」




「…………」




「……ほなここらで休憩時間取りまひょか。
 わいちょっと用足し行きとうなって来てもうてからに」




「……そうですね、では私も。
 しかし、さっき私、軽く厄介払いとか言われてませんでしたか?」




「……まぁ、気のせいやろ」




「…………」




「斬影拳! 飛翔拳! エイヤッ!
 ……あ、ちょっと待ってください! 僕も行きますよ!」







「すまん、KOFMI2のドラマパートのロケで遅れてしまった、八神だ。
 まだ美形会議はや……」





「…………」


「ってはいないようだな、さすがに。まぁ仕方が無い。
 俺も格闘シーン以外の撮りにはまだ不慣れな部分が多いからな。
 完璧な演技を追及するに当たって、どうしてもリテイクが重な……」







「ぬぉ!? 何だ、これは! 何か転がっていたぞ」





「…………」


「しまった、これはいつかの人形ではないか。まだあったのか。
 確かボンドなしでもくっついたはずだが……」





「…………」


「クックックッ、思い出したぞ。どうやらこの穴で貴様の首は繋がっているらしい。
 所詮は愛玩用の人形…… 脆いものだ。だが安心しろ。すぐに終わらせてやる」





「…………」


「……こんなものか」





「まぁもう、わいのおらへんKOFは味気のうてしゃあないさかいな。
 味気なさで言うなれば、リンゴの入ってへんアップルパイみたいなもんやで、実際。
 ファンからの苦情が殺到してお前、
 結局、PS2版のKOFXIに後から呼ばれてもうてからに(笑)」


「そこへ行くと家庭用の追加キャラとしても呼ばれなかった僕の味は
 肉まんの裏に付いている透明な紙くらいのものでしょうか? フッフッフッフッ」




「い、いや、お前さん、何もそこまで下手に出んでも……」




「何だ、貴様等、まだ居たのか。
 前から言おうと思っていたのだが、自分の人形くらい自分で管理……」








……ああ!?




あああああ!




ああああああああ!?




アアアアアアアアアアッ――――!!!!




「な、何だ、貴様等!?」




アアアアアアアアアアッ――――!!!!




「ちょ、ちょっと! 右京さん!?」




「右京さん!? そない絶叫して肺は大丈夫な…… 右京さん!?」




アアアアアアアアアアッ――――!!!!




「どうした!? しっかりしろ!」




「右京さん!?」




「右京さん!?」




「……な、なんということだ!
 このフィギュアは単に首を挿げ替えただけ! 悪質なアイコラにも劣る愚劣な手法!
 私としたことが、こんな初歩的な罠にかかる所だったとは……
 酷い詐欺だ。見損ないましたよ、美形会議の皆さん! 300万も下ろして来たのに……
この話はなかったことにして頂きましょう! それでは!」


「何だ? 何がどうなっている? 何故この会議にそんな大金を……」




「…………」




「…………」




「何に使う金だったんだ……」




「ハァッ…… ハァッ…… ハァッ……! み、水を……」