DEATH-TINY 8
戦士(つわもの)の夢
早速、キムと一戦交えようとするテリー。
しかし一触即発ムードの中、ジョーが待ったをかけた。
「そいつの相手はオレにさせてくれ」
ジョーにもプライドがある(服はマントしかないが)
クローンとはいえキムという男にヤラれた借りは返しておきたいと彼は語った。
やや
八つ当たりのような気がしないでもないが、闘わねば先へは進めない。
キムを倒し、アンディの居場所を吐かせることがテリー、ジョー達の目的なのだ。
不運にも道場が破壊されてしまったため、表で闘うことになったジョーとキム。
風が吹き抜け、木の葉がゆらゆらと舞う中、二人は構えた。
互いに隙のない構え。それも飛び抜けてだ。
見る者にも伝わって来る息苦しいまでの圧迫感が、二人の力の拮抗を示していた。
「こりゃあこの勝負どっちにころぶか…… わからねぇ!!」
両者、打ち合わせでもしたかのように
きええ――――っ、と
奇声を発して同時に打ち込む。
ファーストコンタクトはジョーが優勢。この男、恐ろしく強くなっている。
しかしフィニッシュに放ったタイガーキックはキムに冷や汗をかかせながらも寸前で止められ、
やはりジョーの技は見切られていることが露呈された。
キムはジョーのクローンを相手にトレーニングを積んでいたのだ。
今度はキムが打って出る番。
彼はノリノリで通常技を叫びながらジョーに打撃を浴びせる!
「ディチャギ!!」「ネリチャギ!!」「ドリチャギ!!」
しかしギリギリでガードして耐えるジョー!
そこへキム・カッファン必殺の……
飛燕斬!! これは当たった!!
当たったが、ダメージなく着地に成功するジョー。
「ふ……ん あさかったです…… か」
「オレもおまえのクローンとやりあったからな
おまえの技は知っているつもりだよ」
さすがはジョー・天才ムエタイチャンプ・東!
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喰らったのは飛燕返しのはずだが、
クローンとの手合わせでジョーもキムの技を見切っていた。 |
条件は互角。腕は少々ジョーのほうが上か?
本物のキムでも不自然なパワーアップを遂げたジョーを止めることは出来ない!
かに、思われた!
しかしクローンキムは全ての技を見せたわけではなかった。
さらにスピードを上げ、キムの通常技シャウトが韓国は慶州に響き渡る!!
「龍殺脚!!」「チルギ!!」「ヨプチャギ!!」「アプチャギ!!」「パンデ!!」
少々叫びすぎの感があるが、トドメの飛翔脚までクリーンヒット!
が!!
上から蹴りまくられながらもジョーはパンチでキムの顔面を捉えた!!
思いもしないカウンターを貰い、意識の飛ぶキムの後頭部にさらに、
「ハイキック!!」「ひじ打ち!!」そしてトドメはムエタイ名物、
首相撲からのチャランボー!!
これでキムは尻餅をついてついにダウン!
ジョー・裸旅行・東、
驚異的に強い。
「さ…… さすが本物
あなたの技はすべてかわせるはずだったのですが……
クローンとはきれ…… スピードともにちがいますね」
「あたりまえだ
おれは前より数段強くなっているといったはずだぞ」
…………
イメトレで戦術、戦略レベルが上がるのは解る。
しかしなぜ
スピードまで上がっているのか?
休養か?
クローンジョーを一発死、飛翔脚を受けながら拳を捻り込む等を見るに
どうも今のジョーは以前より攻撃力、肉体的強度も上がっているように見える。
そこを踏まえての「前より数段強くなっている」発言と見て良いだろう。
イメトレで戦術、戦略が上がり、休養で肉体的レベルが上がったのだろうか。
なぜ寝ているだけでそんなイベントが起こるのか。
しかも怪我の完治は2、3週間とのことだったので、
彼は
わずか一ヶ月足らずで驚異的なパワーアップを遂げたことになる。
うさんくさい塾の広告のようだ。
ジャッキーチェンで有名な酔拳は酔えば酔うほど強くなるらしいが、
ジョーは
寝れば寝るほど強くなるらしい。
練れば練るほど色が変わるねるねるねるねも真っ青と言えるだろう。
ジョーの大幅パワーアップが目を引く中、もはや打つ手なしかに思われたキム。
しかし彼はここへ来て、不吉な予言を行った。
「もうあなたの技はひとつもくいません」
謎の余裕を見せるが、ジョー・無敵・東とて余裕ぶりでは負けてはいない。
キムにトドメを刺すべく、ジョーは一切構わず拳脚の連打を打ち込んだ。
だが当たらない!
今まで当たっていたはずのジョーの攻撃が急に当たらなくなってしまった!
テリー曰く
「あいつの技の見切り おれより上かもしれねぇ」
負けず嫌いのテリーらしからぬ半敗北宣言だ。
ジョーが天才ならキムも天才。
キムはここまでのやり取りで今のジョーの技を見切ってしまったのである。
ジョーの技をことごとく躱し、この闘いを終わりに導くべくキムが繰り出した技は……
超必殺!
アタタ鳳凰――脚―――っ!!!
決まった。
「ムン!」と勝ちポーズを決めるキムと、血みどろとなって
また大の字に卒倒するジョー。
もはやキムの興味は死んだ魚のような目でピクリとも動かないジョーではなく、
テリー・ボガードへと向けられた。
だが顔面蒼白のダックとは違い、テリーは笑みすら浮かべる余裕の表情をしていた。
「おまえ丈をなめすぎてやしねぇか?」
「なんと!」
キムがそう驚くのも無理はない。
なんとジョーはあれだけまともに鳳凰脚を喰らっても、執念深く立ち上がって来たのである!
硬いぞ! ジョー! 強いぞ! ジョー!
「残念だったな
おれのクローンならこれでねたままなんだろうがオレは休養十分だからな
もう少しもつぜ!」
さすがジョー・理不尽・東。
この発言が皮肉を込めたジョークなのか、本気で言っているのかは私には
判別が付かないが、
やはりかつてのジョーよりも打たれ強さが格段に増していることは間違いないだろう。
しかし
なぜイメトレで?
本当に
休養で打たれ強くなったのか?
ジョークじゃないのか?
ジョーの生態は不思議に満ちている。
ゲーム的に考えれば、休養を取ることで体力ゲージがグーンと、
限界を超えるほどに回復したということなのだろうか。
結局、ジョー・謎生物・東、思いがけないスーパーパワーアップの真相は闇の中となった。
ジョーは聞く。
なぜここまで素晴らしい腕を持ったキムがクラウザーなどの下に付き、悪事に加担しているのか。
ジョーにはキムほどの武闘家が力を腐らせているのが残念でならなかった。
「それはちがいます」
キムの返答は意外だった。
キムはクラウザーの野望などに興味はない。
クラウザーはキムの腕を利用し、キムはクラウザーの政治力を利用する。
クラウザーが集めた武闘家を、全て自分のテコンドーで倒す。
それにより――
「あらゆる武道がテコンドーにひれふす!!
テコンドーがこの世の武道の頂点に君臨するのです!!!」
そう宣言したキムの顔は、
どこまでも悪人面だった。
「おろか者だよ おまえ……」
ジョーに静かな哀れみと、そして怒りが沸く。
「どの流派が最強かなどどうでもよいこと…… 要は……」
「"だれが強いか" それだけのことだろ?」
そう、
どうやって強くなったかなどどうでもよいこと。
要は誰が強いか、それだけのことなのである。
わずか一ヶ月足らずのイメトレと休養で
突然、作中最強クラスの戦闘力を得ていても何も不自然はないのだ。
誰が強いか、それだけ。それがジョーのメッセージ。
「オレとおまえ…… どちらが強いかいま…… おしえてやる!
"一瞬"でな!!」
新たに闘志を燃やすジョー。
しかし忘れてはならないのがキムの見切り。
もはやジョーの攻撃はキムには全く当たらないのだ。
「あなたはわたしに指一本ふれることさえできない」
挑発されたジョーは柔らかに右の拳を突き出した……
うっ!?
!?
「勝負は生きもの 技の見切りに完璧はない
自信が過信になったとき すでにおまえは負けていたんだ!!」
き……
き、汚ねぇぇぇッッッ!!
チョー汚いよこの人ぉ! しかも
説教まで始めちゃってるよこの人!!
有り得ない! 有り得ない展開! そして周りの人達も喜びすぎ!!
ズルイじゃん! ズルイでしょ!? 普通の感覚でズルイでしょ!?
相手を愚か者と罵った後、どちらが強いか一瞬で教えてやると宣言。
その後、木の葉で目潰しをした隙に歯を剥き出して急接近し、見開き爆烈拳、
そして説教。
最低だ。
かつてジョーはライデンと闘ったときに、毒霧、噛みつき、凶器攻撃を受け、
「ど……どこまできたない男……だ ライデン」と言っていたが、ここで私は彼に、
「ど……どこまできたない男……だ ジョー・東」とメッセージを送りたい。
この時ほど今作を
ギャグマンガと間違えそうになったことはない。
拳に道具はいらねぇ! と言いつつも石つぶてで目潰しはOKで、
しかし人質は断固NOなテリー的正義観が周囲に伝染したのだろうか?
朱に交われば赤くなるというのはどうやら本当らしい。
周りの連中も喜びすぎだ。
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「ジョオオーッ!! おまえはいったいどうしたというんだーっ
急所げりに目つぶし(サミング)
おまえは死んでもそんなひきょうな技をつかうやつじゃないはずだーっ!!」
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という、在りし日のアンディの叫びも今や虚しく響くのみ。
『戦士(つわもの)の夢』というタイトルの今回だが、
むしろ
夢であって欲しいというのが、偽らざる私の本心である。
ジョー・底辺・東
かくしてジョーの評判はまさに
“一瞬”で地の底まで落ちたのであった。
ジョーの不意打ちを喰らい、焦点の定まらぬ目で虚ろに起きようとするキム。
しかしもはや闘える状態ではなかった。
「テコンドー……は世界最強…… ム……ムエタイごときに敗れるはずが……」
〜〜〜〜〜ッッ その時!!
キムの頭にトドメの棒撃が打ち付けられた!!
舌を出して無様に倒れ散るキム!
その背後には…… あの漢ッ!! ついにあの漢がッッッ!!
「てめぇが…… 弱いんだよ!」