DEATH-TINY 10
悪夢の虜囚
獣がいる
強く 心やさしき 獣がいる
獣たちは集い 闘い
伝説をつくる
餓狼伝説を―――――
満月をバックにやたらカッコイイモノローグから始まるボンボン餓狼2第3巻。
アンディはヴォルフガング城の豪華なベッドでビリーの棍がテリーに刺さる夢を見ていた。
汗をかき、起き上がるアンディ。
半裸だがクローンキムにヤラれたらしい傷痕はない。もうすっかり完治しているようだ。
嫌な予感に俯き、窓の外を見る。
豪華だったベッドとは裏腹に窓には鉄格子がかかってあり、まるで囚人のようだ。
今のアンディはまさに悪夢の虜囚だった。
「もしやテリーの身に―――― なにか!?」
一方、当主クラウザーの間では謁見しているローレンス・ブラッドが
主の発言にひどく狼狽し、驚きの声を上げていた。
「うせろブラッド わたしには同じことを二度かたる舌はない」
目を閉じたまま、静かに言うクラウザー。
しかしそれでもローレンスは当主の宣言に納得が出来ず食い下がった。
目を開くクラウザー。
先程までの静寂は嵐の前の静けさ、
鋭く光を放つ眼光は何も語らずともローレンスの熱を一瞬で冷まし、
彼を
泣きそうな顔にした。
ちょっとカワイイと思うのは、素人考えだろうか?
再びアンディ。
閉じ込められているアンディは苛立ちのままに鉄格子の窓に椅子を投げつけていた。
うっお―――っ!! くっあ―――っ!! ざけんな―――っ!
とは言わないが、さすがは兄弟である。
広い。
鉄格子以外は一見普通の、むしろ高級な客室に見えるが、
出入りを司る扉とてシュトロハイム家の技術の粋を結集して作った超・強化扉なのだろう。
突進して来る車を拳で止め、
キムの道場を半壊させたテリーの例を見るに
並の強度ではアンディは簡単に部屋を破壊して脱出してしまう。
もう鉄格子から何から
超人硬度30くらいの硬さのはずだ。
と、思ったら
扉が開いていた。
罠か?
構うものか。罠ならかかってやるまでと、アンディは脱出を試みることにした。
階段を下りるアンディ。
しかしそこで待機していた大勢の、そして変な帽子のピエロ仮面に気付かれてしまった。
というか、全く隠れる素振りも見せず
階段のど真ん中を堂々と下っていては
当然の結果だと思うのだが、これは素人考えだろうか?
頭のキレるはずのアンディだけに自ら罠にかかる覚悟とは別の次元の滑稽さを感じた。
表情は見えないがアンディを発見しビックリした様子のピエロ仮面達。
このことからもアンディの部屋は見た目がどんなに普通でも
出られるはずのない完全空間だったことが判るだろう。
そうに決まってる。
ちなみにアンディも
「うっ く……そ……」と驚き、そして焦りの表情を浮かべたが、
階段のど真ん中を堂々と下っていてはやはり当然の結果だと思うのだが、
これは素人考えだろうか。
こいつもアホですか?
こうなったら仕方がないと腹をくくったのか、
大人数のハロウィン仮面に飛び掛かり大立ち回りを演じるアンディ。
しかし仮面軍団がさらに援軍を呼ぶと、ここでモタモタするわけにはいかないアンディは
アクションスターばりに窓を突き破り、強引に外へ飛び出した。
死ぬだろ、これ。
ていうか、死んだだろ、ギース! このくらいの高さから落ちて! 前例があるだろ!
そもそもそんな切羽詰まった行動取るなら初めから隠れて逃亡することを考えようよ!
行き当たりばったりじゃなくてさ!
彼、冷静で頭キレる方の人ですよね!?
ですよね!?
さて
何事も無かったかのように城下の森を駆けるアンディ。
だが少しでもクラウザーから遠ざかろうと走るアンディの前に二つの黒い影が立ちはだかった。
チン・シンザンとローレンス・ブラッドである。
二人の目的は、
アンディの抹殺。
勝手に逃げたので已む無く始末した、クラウザーにそう報告するために
彼らはアンディの部屋の扉を開け放ち、わざと脱出させたらしい。
…………
そんな鍵なんだ! そんな鍵で開くんだ!
っていうか、クローンとか作るのに部屋のドアは鍵なんだ!!
指紋とかカードとか使わないんだ!
しかもデカいな、なんか!
宝箱開きそうだな、それ!!
それならアンディなら鍵穴を壊せば簡単に部屋から出られ……
いや、これも超人硬度50くらいの鍵なのでアンディには壊せないのだ。
そうに決まってる。
しかし、なぜ彼らはこんな回りくどい方法を使ってアンディを始末しなければならないのか?
その謎は衝撃の告白として、チンの口から語られた。
「クラウザーさまがね あんたしゃんを……
「後継ぎ」に ……なんていいだしちゃったらしいアルのよ」
なにィ!?
クラウザーがアンディを後継ぎに!?
なぜ!? 何のために!?
ジョーじゃダメなのか!?
冒頭でローレンスが驚けば、アンディもここで驚いた。
「しゃべりすぎだぞ シンザン」
次期当主になるのは我らだ。邪魔なアンディを消さねばならない。
今まで影で暗躍して来た大幹部ローレンスが、ついに戦闘態勢に入る。
「ふお…… おぉおぉおおぉおぉお」
森が揺れる。凄まじい闘気。
「ぬあ」 「あ」 「あ――――っ!!」
と
喘ぐような声を上げてヒゲ親父はジャンプした。
「ブラッディ・カッターッ」「フライングトマホーク!」
そしてフィニッシュは
「ロークローッ」
最初から順に必殺技、ライン移動攻撃、
しゃがみ弱パンチと、
だんだんスケールダウンして行くラッシュを受けるアンディ。
少なくともキムと同格と思われるローレンスを相手にアンディでは苦しいか?
と、思われた矢先に
「スピードなら負けんぞ!」と起死回生の伝家の宝刀
「斬影拳!!」
さらに
「手刀落とし!」「裏拳!!」とアンディの反撃が決まるとバトルは一進一退の攻防へ!
「ロースライド!」 「回転打ち!!」 「マントフック!」
「ぬ……お お――――っ」 「が――――っ」
「ぐっ」 「がっ」 「がっ」
「うがあーっ!!」
後半は
技名を叫ぶ余裕がなくなったようで、
ひたすら
ゴツイ雄叫びを上げながら互角に渡り合う両者。
そしてその自慢のスピードがありながら
のんびりと徒歩で階段のど真ん中を歩いて敵に発見され驚いたアンディ。
アンディが強いのか、あるいは実はローレンスがクローンキム以下の弱さなのか。
またはアンディも捕えられている間に
イメトレをやっていたのか。
ラチがあかないと判断したローレンスは隠し持っていたサーベルでアンディのわき腹を切り裂いた!
ドッ
舞う鮮血。
膝をついたアンディの首筋には、冷たい剣が押し当てられていた。
「立つ必要はない これまでだ」
ローレンスの勝利宣言。
しかしこれは試合ではない、勝敗が決するのは敗者の命が絶たれた瞬間のみ。
「死ね―――い! ブラッディ・フラッシュッ!!」
トドメの刃は無慈悲に振り下ろされるのだ!
だがその時!!
ヴォルフガング・クラウザー見参!!
「格下げだなブラッド 最下兵からやりなおすがよい」
クラウザーは冷酷に言い放つと、倒れ、許しを乞うローレンスの胸を踏み砕いた。
骨の砕ける鈍い音とローレンスの
「ぎゃああ――――っ」という悲鳴が満月の森に響く。
木の陰に隠れ、必死に無関係を装うチン。
これが自分を当主に迎えるというクラウザー……
助けられ、複雑な胸中で圧倒的な存在感を示すこの長身の男を見上げるアンディ。
クラウザーは事は済んだと両手を広げ、再びアンディを迎え入れようとする。
なぜアンディを優遇するのか。
このような丸文字手紙でアンディを騙し、呼び寄せた彼だけに理由はやはり……
アレか。
アレなのか。
アレなのだろうか。
身の危険を感じたのか、頑なに拒むアンディ。
こんなに怪しげに両手を広げられてはそれは黒くもなろうというものだ。
しかし、クラウザーの口からは
「おまえに選択権はない」という危険なセリフが、
そして眼光には殺気、全身には闘気が収束していた。
「闘(や)る気…… か!」
やる気だ。
ならば受けて立つ! 傷ついた身体で踏み込むアンディだが、
クラウザーが放った技はあまりに激しい……
カイザー・ウェーブ!!!
――――……
満月をバックに宙を舞うアンディ。
チンが目を塞ぐほど凄惨な威力のこの技はアンディを失神させるには充分だった。
森がざわめきを上げるように風が吹き抜ける――
強く…… 強くなれ 我がもとで……
おまえは世界の王となるべき男
誰よりも…… 誰よりも強くあらねばならぬのだ……
よいな――――
息子よ!!
!!?
アンディ、ギースの息子説はあちこちで何度も聞くが、
まさか裏をかいてクラウザーの息子で来たのかボンボン餓狼!?
あるいはギース説と
間違えてクラウザーの息子にしてしまったのかボンボン餓狼!?
衝撃に次ぐ衝撃。
色々な意味で何が起こるか分からないボンボン餓狼は一体どこへ向かおうとしているのか?
テリー達が闘いの果てに掴むであろう真実とは果たして……?
もう、誰にも止められない。
止められないし、
止める気もない。