DEATH-TINY 11
魂の行方

日本 熊本
山田柔道場と看板が立ててある。
そこではニワトリ頭のダックがニワトリ、ヒヨコの世話をし、半裸のジョーが薪割りに精を出していた。
先の大流血戦が夢であったかのようにのどかな光景だ。
アンディの一大事に何をやっとんじゃとお怒りの美形キャラ、アンディファンもいるだろうが、
こいつら似合いすぎる



そして舞は濡れた布の入った桶を持って縁側を歩いていた。
舞の目的地には、ビリーに敗れ深手を負ったテリーが眠っている。

テリーが薄っすらと、ぼんやり瞳を開き半身に起き上がったところで
舞が甲斐甲斐しく看病にやって来た。
漢のマンガ、ボンボン餓狼は半女人禁制と言っても良い硬派ぶりなので、
人気キャラの舞といえどもこういう女性的なシーンを見付ければ
積極的に存在感をアピールしなければならないのである。

「テリーッ!」

起きたテリーを見るなり絶叫する舞。
それもそのはず、テリーはあの後意識を失い10日も眠ったままだったらしいのだ。
そして今いる場所は舞の祖父、不知火半蔵の友人で柔道家の山田十平衛の道場。
大怪我を負ったテリーを3人でここに担ぎ込んだと舞は話した。


…………

病院だろ……


まず病院だろ!!
なぜそんな重体のテリーを連れて来たのが韓国から海を渡った日本で
しかも柔道家の道場なのだろうか。病院だよゥッッ!!!

意味がサッパリ解らないのは私が素人だからだろうか。
すぐさま韓国の病院へ運ぶのが当たり前だと思うのだが、
半裸の日本人二人モヒのアメリカ人では門前払いに遭う可能性がないとも限らない。
その可能性を考えて、最短ルートでの日本帰郷だったのかも知れない。
しかしなぜ柔道家の家
というか、服着れば良いだけの話だ。

そもそもあんな破廉恥な格好で看病をするのは良くない。刺激が強い。
遠足のように入退院を繰り返している私が言うのだから間違いない。


嬉しそうにテリーに話し掛ける舞だが、テリーの口からは信じられない言葉が漏れた。

「きみはだれだ?」

!?

「おれはいったいだれだ!?」

いやこっちが聞きたいよ!
ずっと思ってたけどお前絶対テリーじゃないだろ!
テリーはピチピチタイツじゃないだろ! ホント誰なんだお前は! 誰だ!!


ドイツ――

ヴォルフガング城ではチン・シンザンが大声を張り上げてビリーを捜していた。
どうやらチンは降格されずに済んだらしい。
そればかりかローレンスに代わって第一参謀の地位を得ているようだ。
クラウザーともあろう者がローレンスとチンの結託を見抜いていないはずはないので、
これは後を譲る前に、まずアンディをそこに据えるまでの繋ぎだろうか。
一体どちらが利用されているのか、野望渦巻く人間模様である。

ビリーの名を呼びながらドスドスと走るそんなチンの前に、危ない危ないビリーの三節棍が現れた。

「ローレンスをだしぬきこんどはおれを呼びすてか
 えらくなったもんだな シンザン」

前話のローレンスもそうだが、
なにやら執拗に「シンザン!」とファーストネームで呼ばれているチン。
新手の嫌がらせだろうか?

まずチンはビリーが勝手に韓国へ渡り、テリーと闘ったことを責めた。
我らに従わないうえにクローンも出来たテリーはすでに用済み。
テリーはキムが始末する手筈だったらしい。
ということはアクセルの遺言は罠だったということになる。
せっかく感動して信じたテリーは馬鹿を見てしまった

百歩譲ってテリーを倒したのは良い。
しかしなぜトドメを刺さなかったのかと問い詰めるチンだが、
「やかましいぞ シンザン」と、ビリーにまたファーストネームで呼ばれてしまった

ギロッとビリーの怖い瞳で睨まれたチンは、怯みながらも本題であるクラウザーの勅命を話した。

「クラウザーさまから"C計画"開始のご命令が下ったアル」

C計画
これが物語の運命を握るキーワードだろうか。
この謎の計画を遂行するため、責任者となったチンはビリーをアメリカに、
ローレンスをフランスへと配属する意向を伝えた。

だが、ビリーはある男に言った。
決着をつける勇気があるならドイツへこい。
ここを離れるつもりはない。

「オレはここで"奴"をまつ
 こんどこそ命をかけた闘いになるであろう男を!」


クラウザーの計画よりも、ビリーは約束を選んだ。
今のビリーにこれほど重く、尊い物はない。
“奴”…… テリー・ボガードとの最後の闘いの時を、彼はじっと待つ。


ビリーが立ち去り、「ビリーの野郎ーっ!!」と荒れるチン。
そこにハロウィン仮面のひとりが何やら報告にやって来た。



やはり「シンザン」だった

ハロウィンマスクの報告でさらに機嫌を悪くするチン。
ローレンスもまた、チンが決めたフランス行きの命令を拒否していたのだ。
クラウザー内部がにわかに荒れ始めた。


「だめだ わからない!
 なにも思い出せないんだ!!」

再び日本。
なんとテリーは記憶喪失になっていた(笑)

悲観に暮れる舞達3人。
重苦しいムードとなり誰もが口を開けない中、
すり足で忍び寄り、背後から抜き手で舞の胸を揉み上げる魔の手が出現した!
即座に飛ぶ舞の高速ビンタ!!

「なんじゃなんじゃ ガン首そろえてしょぼくれおって……」

ほっぺたに綺麗な紅葉を咲かせた柔道着のじいさん。
この道場の主、山田十平衛である。
沈んだムードを明るくしようという老人の粋な心遣いだった。のだろう

しかし重傷だったうえに今度は記憶喪失。
親友の孫の友人とはいえ突然こんな男を運び込まれてはさしもの十平衛も
「悪いな おれは医者じゃねぇ そいつはできねぇ相談ってもんだ」
といった心境だったことだろう。ていうか、病院だよゥッッ!!!

しかし、十平衛は病院に連れて行くこともなく、医者を呼んだりもせず、
ホウキを持ってテリーの寝室へと入り込むとそれを逆に構え、テリーの眼前に突き付けた。

「うおおーっ!!」

怯えるように大袈裟に後退り、ファイティングポーズを取るテリー。
テリーにはホウキの先がビリーの棍に見えていたのだ。
この様子に察しの良いジョーが気付いた。十平衛が答える。

「こやつの記憶がもどらんのは思い出したくないからじゃ
 おのれを倒した男の
"恐怖"を!!」

まさか、テリーほどの男が。あのテリーが夢にまで怯えるというのか!
テリーは散々傍若無人の限りを尽くしながらも
いざ自分がヤラれてみると案外、打たれ弱い男だったようだ。

しかしそれも仕方ない。
あのときのビリーの鬼気迫る迫力――



「直接むきあっていないこのおれでさえ足がすくみ
 ただテリーが敗れるのを見ていることしかできなかったほどだ」


あの最強にして最低のジョーがである。
テリーの精神をも壊す、ビリーの狂気的な執念。

「ちがう! ちがうよねテリー あんたはそんな腰ぬけじゃないでしょ!?」

必死にテリーに呼びかける舞。
仕方ないことだとジョーは言うが……

「それじゃあアンディはどうなるの!?
 テリーはあたしといっしょにアンディを助けにいくんだよ!!」

ここぞとばかりに目に涙を溜め、一緒にアンディを助けに行くと訴える舞。
サウスタウンで交わした約束、誓った決意。
お互いにとって大切な人のため、彼女は一緒に行くと決めたのだ。

が、ジョーはしこたま強いことだし、のどかに薪なんぞ割ってないで
一人でドイツへ行ってみてはどうかと思うのだが、やはりテリーは一行の精神的支柱なのだろうか。
というか、もう彼らはテリー教信者といった風でさえある。





教祖様がいなければどうにもならない。薪を割るくらいしかすることがない。
そんなジョー、舞達の想いに呼応するが如く、
記憶を失ったテリーは「アンディ」という単語に反応した。

「うおお―――っ!!
 ふお……
おおお」

鼻息を荒くしてまたファイティングポーズを取るテリー。
テリーの恐怖を打ち払おうとする意識がこのポーズと鼻息に集約されているのだ。

テリーは腰抜けではない。
今までも何度も殴り倒され、噴水のように血を噴出し、地面に這いつくばりながらも彼は立ち上がり、
石つぶてを浴びせ、椅子、テーブルを投げ散らして必ず勝利を手繰り寄せて来た。
その“負けず嫌い”の心さえ折れていなければ、絶望するにはまだ早い。
だから病院だよゥッッ!!!

しかし、十平衛はやはり医者に見せるという選択肢は見せず、
ここでは狭いので“竜黒谷”へ行くと言い出した。

「そやつの記憶をとりもどしにの!」


ええっ テリーの記憶を戻せるのかー!?
というシーンなのだろうが、リアクションが大きすぎてあたかも記憶を戻すのが都合悪いかのようだ。


竜黒谷――
ボンボン餓狼で老人と来る所と言えばもちろん、

火曜サスペンス劇場である。
岬ではないため、下で大波が波打っていないのが残念でならない。
代わりに下には川が流れている。

そして当然、
即、襲う


突然、投げを浴びせられ、硬い岩肌に身体を打ち付けられるテリー。
いきなりの凶行に舞から非難の声が上がるが、
血がダラダラ流れていたのは十平衛の額からだった。
記憶はなくともテリーの体は自然に反応し、十平衛に蹴りを返していたのである。

「まさに狼…… 野生の狼じゃ」

テリーの記憶を戻すには、その野生の本能に賭けるしかない。
毒には毒。恐怖には恐怖。
決して岩盤に頭を打ち付けて記憶を戻そうなどという古典的な作戦ではない。
テリーの魂を探して、十平衛の荒療治が始まった。

「おまえのためにわしはいまから鬼になる!!
 恐怖をはじるな のりこえよ!! おまえの心に巣くう恐怖にうち勝て!!
 さすれば記憶はかならずもどる!!」

再び炸裂する鬼の柔道家、山田十平衛の投げ!
さらに「脳天唐竹割り!!」を繰り出したがテリーは咄嗟に躱し、
避け攻撃「ライジングアッパーッ!!」
もちろん例の構図である。

テリーの消えぬ闘争本能。
闘いによって失ったモノは闘いで取り戻すしかない。
テリーの闘志を確認した十平衛はさらに勢いを上げ、彼に激しく掴みかかった!

「わしは地獄のエンマさまじゃ〜っ!!」

そして十平衛がハッスルしすぎたせいでテリーが足を踏み外し、崖から落ちた

「うわああーっ!!」

そのまま二人とも。勢い余って。

「うわああーっ!!」



DEATH-TINY 12
黄泉への激流


うわああ――――……





あー


って、だから死ぬだろ。
死ぬだろ!

どうやらそろそろ人間の常識が全く通用しなくなって来たようだ。

落ちて行くテリーと十平衛に「ああ――っ」と叫ぶことしか出来ない舞、ジョー、ダック。
テリーは無情にも急速落下し、後頭部を地面にしたたかに打ち付けた。
地面? なぜ下は川であったはずの竜黒谷に地面が?

答えは、

“イカダ”である。

しっかりと着地し、余裕の表情で「ほっほっ」と言っている十平衛を見るに、
落下したのは計算づくの行為、そして下に本命のイカダを用意していた、ということだろうか。
この慣れた手際からすると十平衛は普段から崖から落ちてタフネスを磨いたり、
死に際の集中力を養ったりしていたのだろう。
その際にそのまま川に流されて死なないために常にイカダを用意していると考えれば
都合よくイカダがあっても、説得力の出て来る解釈となる。
なぜこのイカダがあの高さからの落下の衝撃を受けても壊れないのかは知らない

せんべい手裏剣で縄を切り、イカダを出発させる十平衛。
ゲームでの舞ステージ風の粋な演出だ。
しかし道場で「ここでは狭い」からと谷へ来たはずなのに、
舞台がもっと狭くなってしまったのはどういうことだろうか。

「さあこい! 邪念をすてて!!」

激流に流されながらイカダの上で再び繰り広げられる二人の闘い。
その様子を舞達三人はじっと見つめるしかなかった。


尚、超高度の崖から転落し、思い切り後頭部を打ちつけたテリーだが、
残念ながらそれで記憶が戻ったりはしなかった
今作はお約束が通用するようで通用しない、不思議な作品である。
というかテリーがまだ人間ならあの高さからモロ後頭部はさすがに死んでしまうはずなのだが……
ここは無意識に発動した鋼霊身で耐えたのだろう。
この作品では珍しく血も噴き出さず、無傷である。


次第に流れの速くなるイカダの上で、まず十平衛が背負い投げを仕掛けた。
しかしこれを伝統の投げ、バスタースルーで投げ返すテリー。
鬼の柔道家、山田十平衛からあっさりと一本だ。

テリーの大胆な行動に、ならばこちらも自分のスタイルにはこだわらんと
「抜き手打ち!」「ひざ蹴り!」「かかと落としーっ!!」の通常技連携を仕掛ける十平衛。
が、抜き手、膝蹴りは決まったものの、最後のカカトは躱されてしまい、
今度は十平衛の方が抜き手打ち、膝蹴りを返されてしまった。

鏡のように十平衛の攻めを返して来るテリー。
この行動を十平衛は「な…… なんたる負けん気の強さ……」と評した。
そして気付く。
テリーが記憶を戻したがらないのはビリーへの恐怖ではなかったのだ。

「おまえがおそれ記憶をもどしたくない理由は……
 
おのれが負けたという事実じゃ!!

ボンボンテリーは強い、かどうかは置いておくとしても負けない。
彼は負けたことがない。
どんな逆境に陥っても突拍子も無い言動で必ず勝利をもぎ取って来た。

そんな彼を支えるものは“おのれが強い”という自信。自負。
アンディと二人、暗黒街サウスタウンで生き抜いて来れたのもその心の強さゆえだ。
だが、彼はビリーに敗れた。確かに敗れてしまった。
それを受け入れれば、己の全てが崩れ去る。
テリーはそれが怖かったのだ。

“あきれた男”だと十平衛は言う。
そこまで自信家の男は見たことがない。

「まるでガキ大将じゃな

と、とても適切な言葉でボンボンテリーの本質を見抜く十平衛。
雲が淀み、天候が崩れつつある状況の中、
テリーにはもう一度敗北を味わわせそれを認めさせるしかないと、
彼は「つかうつもりはなかった」危険な技を仕掛けた。

「そっりゃあぁーっ
 必殺大熊殺しーっ!!」

出た! 右上+Cという十平衛のマニアック最強投げ!
こなきじじいのように背に喰い付き、激しく首を締め上げる全体重を掛けたスリーパーホールドだ!
しかも本当はただの“熊殺し”であるこの技に余計な“”が付いているため、
これはボンボン奥義特有のパワーアップ版であると言える。強い!!

完全に黒雲に覆われた空に、テリーの叫び声が響いた。

「ぐ……え ぐ…… あああ――っ!!」



――――……


ポツポツと雨音がし、やがてそれは激しい大降りとなった。
山田柔道場、自慢の瓦も水浸しである。
居間に座り込む三人。

ザ――――

ザ――――――

「きたな…… 夕立だ」


ていうか、帰ってる……

この人達、家に帰ってる
確かに一緒に谷へと足を運び、
悲痛な闘いを演じるテリーと十平衛を沈痛な面持ちで見つめていた3人だったのだが、
いつの間にか家に帰っている

テリー達が崖から落ち、イカダも流れて行った今、崖上に居ても何も見えないのは確かだが、
しかし見えなくなったからと言ってあっさりと家に帰り、
あまつさえ居間でくつろいでいるのはあんまりなのではないだろうか
これは、ヒドイ

「いまは 信じてまつ以外 われらにすべはない」と語り居間でのくつろぎを正当化するジョーだが、
先の「きたな…… 夕立だ」という発言から考察するに、
「夕立が来そうだからもう帰ろう」
と、ジョーが言い出したことで今の状況になっているのではないか?
という深読みも邪推とは言い切れないだろう。
ジョー・底辺・東、最低記録を更新中だ。


その雨音に紛れるように道場の周囲を囲む怪しい人影があった。
一人二人ではない。奇怪な仮面、変な帽子。こいつらは……

しかし雨音程度で惑わされるジョーではなかった。
彼はいち早く異変に気付き、

白目を剥いて戸を開け放った。
休憩タイムを邪魔されたからだろうか、凄まじいまでの殺気を感じる
低く見積もってもキリングマシーンのとき以上である。

そして雨の滲む庭を裸足で歩き、怪しい気配の正体を探るジョー。
だが! 人影は上! 道場の屋根の上にあった!!



ジョ―――ッ!!


天罰が下ってしまった

さらにいつの間に潜んだのか畳の下からも多数現れ、
舞とダックに襲い掛かるクラウザー配下、チィームハロウィンの皆さん。
こんなことなら帰らなければ良かったなぁ、と彼らは思ったことだろう。


一方、川が荒れ狂い、非常に危険な状況の中、まだ大熊殺しで絞め続けている十平衛。
その気になれば熊の首すらへし折るという必殺のキメ技。これ以上は危ない。
ギブアップを勧める十平衛。
大熊殺しはテリーに自分から敗北を認めさせるには打ってつけの技だった。

だれしも負けることはある
それはけっしてはずべきことではない
はずべきことはそれをのりこえられんこと
負けてもよい!そこから立ちあがれば


テリーのことを想った、十平衛のやさしい言葉。
だが、それでも! それでも尚、テリーは頑なに敗北を認めようとはしなかった。

薄れる意識の中で浮かぶのは幼き日のこと。
サウスタウン。カビが生え、ヒビの入った一室のベッドでアンディが泣いている。
どうやら怖い夢を見たらしい。
そこでテリーは得意気な笑顔で言った。

「なにがあってもおまえはオレが守ってやる
 おれはだれにも負けねぇから」


少年の日の何気ない言葉は、アンディの安心した笑顔と共に、やがて誓いとなってテリーに焼き付く。
負けられない。

ぜったい だれにも負けねぇから……
そうさ…… そうさアンディ……
オレはだれにも負けねぇから…… いままでも…… そしてこれからも……


「ぜったいだれにも負けねぇから!!」

アンディを守るために強くなった。負けないと誓った。
今、そのアンディはいない。
さらわれてしまった。どこへ行った。守らなければ。助けなければ!

テリーの中で静かに、そして激しく心臓の鼓動が響く!

「まってろアンディ…… おまえはオレがまもってやる
 いま兄ちゃんがたすけにいってや……る!」



ドウッ!!

テリーが発散した圧倒的な闘気はもうどうなっても知らん
本気で締め上げていた十平衛を勢い良く吹き飛ばした!
後頭部から地面に倒れる十平衛!
簡単に投げられたり、受け身を取らなかったりと柔道家として少し疑問な十平衛!

顔を見上げるともうテリーは鬼気迫る表情で拳に気を練り上げていた!
「ひ!?」と顔ひきつらせる十平衛に容赦なくゲイザーを放つテリィィ!!

「おお――――っ!!」


ドワアァ……ン

そして当然イカダは崩れ激流に投げ出された(であろう)両名だった。


夕立が止み、三日月をバックにグッタリとした十平衛を背負ってテリーが歩いている。
アンディ編では満月だったことから、あれから半月程度流れたことになるだろう。

ところですぐに雨が止んだ場面に場面転換したわけだが、
二人はあの後、荒れ狂っていた川を雨が止むまで延々と流され続けたのだろうか。
やはり考えなしにイカダでゲイザーを使ったのはマズかった
まさに『黄泉への激流』
一歩間違えれば本当に黄泉まで流されていただろう。

道場に近付くと、敵の気配を察したのかテリーの表情は次第に険しくなり、
そして門を潜った瞬間、それは決定的なものとなった。



サボリ組が黄泉へ逝っている

舞とダックは解らんでもない。
ここまで来るとハロウィン達の実力も上がって来ているのだろう。
中身が全部クローン兵だとするとそれも当然だ。それに今回は剣まで持っている。
多人数が相手では二人には荷が重かったのかも知れない。

だがなぜあんなに強かった、クローンを瞬殺し、あのキム・カッファンと互角に渡り合った
ジョーザコ兵にヤラれているのか
なぜ
ジョーザコ兵にヤラれているのか

ザコ兵達のパワーアップが思いのほか大きかったのだろうか。
そうかも知れない。そうかも知れないが、私が思うに何やらジョーが、弱体化してないか?
僕らに希望を与えてくれたあの爽快な強さは一体何だったのだろうか?



ザコそのものにヤラれ、白目を剥いて倒れている

私は読みながら、例え舞やダックが襲われたとてジョーがいるから大丈夫だと、
言わば彼に全幅の信頼を寄せていたのだが、またしても裏切られた思いでいっぱいだ。
ここへ来てザコ戦闘員にヤラれるなど失態の極みである。
彼は失態の極みを演じてしまった。

不意打ちで斬られた傷が思いの他深かったのだろうか。
野外でうつ伏せ、しかもマント付き(ジョーは闘う時は脱ぐ男)であるところから見るに
あのまま一発KOだった可能性も高いだろう。
ジョー・東とてサーベルで斬られると痛いはずだ(防具も凄い薄いし)
ならばなるほど、この醜態も致し方ないと言え…… いややっぱダメだな


ジョー・底辺・東、実力まで底辺へと下落。
もう、救い様がない


「舞! 丈! ハゲ!」
生きていた十平衛が三人に声をかける。
幸いにもまだ三人ともトドメは刺されておらず息があった。

「いま…… ばかやろうどもをかたづける」

静かに言うテリーには、迫力があった。
早速沸いて出て来るサーベルを持ったハロウィン達。
しかしテリーは鋭い視線を投げつけると、殴る! 蹴る! ゲイザー! と、
一瞬で周囲のザコを吹き飛ばした。


ジョーの立場がない
少し先を語れば、ジョーはこの後、たいした活躍の場もなく最終回を迎えることになる。
よって、ジョーの時代はこの失態で終わったと言えるだろう。
彼は失態の極みを演じてしまった。
ザコそのものにヤラれ、白目を剥いて倒れている
ジョー時代の終焉である。


       キミが輝いていた頃を、忘れない……



だがテリーはこのザコ兵達ではない、大物の気配を察していた。
「そこのおまえ…… おまえがでてこいや おまえはちったぁ強ぇんだろ?」
木の陰に黒く感じる強い闘気。
出て来たのは…… あの!

 ローレンス・ブラッド!
ローレンスはフランス行きを断り、ここ日本へと来ていたのだ!


「よくわたしに気づいたな」

「わからいでか……
 てめぇらだれのところにあそびに来たつもりだ?」



「おれは……


「テリー・ボガードだぜ!!」


記憶が、戻った!!