九龍の法則画伯
美形会議 バトルアーカイヴズ2
「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」




「もう正直、わざわざ説明せんでも
 “顔パス”みたいな感じでええんちゃうか思うてんねやけど、
 わいが龍虎の拳の美形キャラこと……ん!?」



「八神だ」




「…………」




「…………?」




「サムライスピリッツの美形キャラ、橘右京さんだね」




「……いや、待て待て、アンディ」




「は、何ですか?」




「……いや、お前さん、今、ちょっと……なぁ?」




「はぁ……何か?」




「……いや、お前さん、今、アンディやなくて……
 パンティて言わへんかったか?」




は!? 言ってないですよ!
 のっけからいきなり何言ってるんですか!」




「いや、わいは確かにパンティて聞こえたんやけども」




「聞こえませんよ!」




「……(笑)」




「いや、何笑ってるんですか、右京さん! 今、笑ったでしょう!」




「ん……そか? 八神、お前はどや?」




「む、そうだな。響きは確かに酷似(こくじ)しているが」




「響きとかそんな僕は知りませんよ!
 何で僕が自分で自分の名前をそんなパンテ……なんかと間違えるんですか!
 訴えますよ!? 冒涜かい!?」



「ま、まぁ、言うてへんのならわいとしても別にええんやけども。
 何やちょっと気になってもうただけやないかい」




「そうだな」




「まったく……会議に出るときは耳の掃除くらい念を入れて来て欲しいものですね。
 今日はせっかく僕が重大な議題を用意して来たというのに」




「おお、今日はアンディさんの議題ですか」




「ええ、議題の一つも持たずに会議に来るようでは、
 まさに駄目な美形キャラの見本になってしまいますからね。
 僕は今、今日(こんにち)におけるこの美形業界のジリ貧的な危機的状況について、
 ある一つの問題点を発見したんですよ」


「ほぅ、それは興味深いな」




「そう、なぜ僕達のような本来、最も優遇されるべき……
 新作が出れば出場枠を優先されるだとか、
 つまりはVIP待遇が当然であるべきの美形キャラが、なぜ? Why?
 どうしてこうも窓際へと追いやられるのか!
そこにまさに忌まわしきトリックが存在していることに僕は気付いたんですよ!」


「ん? 俺と橘右京は充分、出場枠を約束されていると思うが」




「え、僕だけ!?
 いやいや、そんなことはないでしょう!
 ねぇ、ロバートさん! 近年、僕ら美形キャラ達は冷遇されていますよね!?」



「まぁ……せやな。
 わいも全盛期に比べればやや仕事が減ったような気もせんでもないな。
 お前さんほどやないにしても」



「で、ですよね。だからですね、僕はそのカラクリに気付いたんですよ。
 ずばり! 世の美形キャラには、ニセ者達がはびこっている!」




「なんやて!?
 その美形キャラのパチモンがわいらの仕事奪っとるっちゅうんかい!」



「そう!」




「どういうことだ」




「つまり僕が言いたいのは、本来、美形キャラでもないキャラ達が、
 さも美形キャラであるかのように振る舞い、
 偽りの人気で世間を欺いているということなんですよ!」



「ど、どういうことや、アンディ!
 事と次第によっちゃあ世間がひっくり返る大発見やで、そらお前さん!」



「ずばり、整形ですよ!!
 本当はまるで美形キャラでもないのに、
 人工的に顔を変えることで美形キャラに成り済ましている輩がいるんだッ!」



「な、なんやてー!」




「整形手術か。確かに、近年は芸能界でも度々噂が流れているな」




「な、なんちゅうこっちゃ!
 ご両親から授かった大切な顔に……そら美形詐欺やないかい!」



「そうなんですよ!
 本来、天から授かった美形キャラというステータスを後から上塗りしようだなんて、
 盗人猛々しいにも程がある! そしてこれは同時に僕達、
 生まれ付いての美形キャラの価値を貶める行為にも繋がるんですよ!」


「せ、せやったんか! お前さんがすでに人々の記憶から完全に消え去っとるんも、
 わいの仕事が地味に減っとるんも、その美形詐欺の仕業やっちゅうんやな!」



「い、いや、まだ消え去ってはないでしょう!
 NEOGEOオンラインコレクションとか出てますし……
 ま、まぁ、とにかく僕が言いたいのはそういうことなんですよ」



「なるほどな。
 そこまで断言するからには、その美形詐欺とやらを行っている人物も、
 貴様はある程度、特定しているというわけだな?」



「もちろんだとも!
 よいしょっと、この写真を見れば一目瞭然でしょう」








「さて、これが1994年当時の草薙京君」




「む? 奴か」




「続いてこの写真を見てくれ。これが、翌年1995年の草薙君だ!」








「……!?」




「こ、これはー!?」




「どうですか! この変化をどう思われますか、皆さん!
 明らかに顔の彫りが薄くなって、さらになぜかお肌までピチピチになっている!
 これは整形手術以外の何物でもない!」



「これはアカン、これはアカンでぇ!
 美形業界のタブーに踏み込んでまうで、これは!」



「なんとうことでしょうか! 仮にもSNKブランドを背負って立つ草薙君が、
 こんな卑怯な手段を使って婦女子らを騙し、
 あまつさえ間接的に僕の出番を奪っていただなんて!」



「……ふむ、しかし、俺には少々解せんな」




「な、八神君。君はこれだけの証拠を付き突けられて、まだ何かあるというのかい?」




「せや、お前! 草薙の親友、そしてライバルやからて、いじましく庇っとんちゃうで!」




「いや、そんなつもりは毛頭ないが、
 この現象はただ、デモ絵の画風が変わっただけではないのか?」




「おま、お前は何を言っている!?」




「そんなん、お前! それ言うてもうたらおしまいやないかい!
 ええ加減にせえよ! なに文化人ぶっとんのや!」



「ん? どういうことだ?」




「……空気読め!」




「見ろ! 右京さんも怒ってるじゃないか!」




「……KY!」




「見てみ、お前! 右京さんも最近覚えた流行語使うて怒っとるやないかい!」




「……KY!」




「見ろ、八神庵! 右京さんも怒っているぞ!」




「……KY!」




「見てみ、ほれ!」




「むぅ」




「……KY!」




「見てみ、ほら、八神、お前。
 ……あ、あの右京さんも、そない何べんも言わんでもええんですよ」



「え、ええ、せっかく流行語を覚えて使いたいのは解りますが……」




「…………」




「そうか、いささか納得出来ん部分もあるが、
 デモ絵の画風が変わった、という方向からでは論議が進まんのもまた事実だな。
 整形か……なるほど、難しい問題だ」



「ああ、これは本当に繊細な問題だ。
 だが、僕の提出した資料の通り、草薙君が整形を行っているのは間違いない!」




「せや! こら由々しき問題やで!」




「……うむ」




「……いや、果たしてそうだろうか?」




「何!? お前、草薙の親友でライバルやからて、
 まだ何ぞイチャモン付けようっちゅうんかいな!」



「冒涜かい!?」




「……いや、それを言うならば、」








「あ……」




「あ……」




「初代の橘右京も充分今とは顔が違うと思うのだが……」




「ガハァ!」




「血を吐いた!」




「右京さんが血ぃ吐きよったで! せ、せや! あかんかったんや!
 昔の右京さんは美形どころかブサイク、
 しかも悪人面やてことがバレたらあかんかったんや!」



「ウゴハァ!」




「あ、謝れ、八神庵!」




「右京さんに謝れ!」




「な、何だ、貴様等!? 落ち着け」




「まったく、君はつくづく右京さんに対する配慮が足りていないようだね。
 先人を敬う気持ちがまるでない」




「まったくや。今は草薙整形疑惑が議論の中心なんちゃうんかい」




「……うむ」




「……そうか、ではもう一枚持って来たこの資料はどうしたものか」








「……!?」




うわああああああああああああ! メガドラ版!




「ア、アンディ! お前、これモロ……妙にゴツいし眉毛もないでぇ!」




「ち、違っ! 違うんですよ、ロバートさん! 彼はアンディじゃない!
 そ、そうだ! 彼は、この男は、パンティだ!」




「パ、パンティ!?




「そう、この男こそがパンティなんですよ!
 僕のニセ者を語るパンティという男で、僕も迷惑してるんですよ、本当に。
 さ、さぁ、早く、こんな物騒なメガドラ版は押入れに仕舞い込んでしまいましょう。
 もう誰も触らないよう、出来るだけ奥の方に」


「ま、まぁ、せやな。
 人は誰しも、触れたらあかん過去、みたいなもんはあるんかも知らんな。
 わいかて、整形はせぇへんにしても、オールバックに一本だけ前髪垂らしてみたり、
 ルックスには色々変化を付けてやり繰りしとるくらいやさかいな」


「そうなんですよ! 髪型をイジったり……そうですね」




「せや、顔写真でも、Photoshopでニキビを塗り潰すくらいは……
 まぁ、セーフやろな」




「ですよね! まぁ、ちょっとした加工くらいは大目に見るべきかと」




「ちょっとした白髪を染めたりな」




「ええ、生え際を少しボリュームアップしたりだとか……」




「……!?」




「……そうか、写真だけではなかなか整形を見破るのは難しいのかも知れんな。
 俺も2002のときはリーゼントを採用してみたが、反響は散々だった」




「まぁ、そこはほどほどに、ということで……」




「そうだな、では本題に戻るが、京の整形問題はどう判断する?
 俺にはまだ判断材料に足るものがないと感じているが」




「ああ、もう、それはお前、電話して聞いて来てくれ」




「何だと? 俺がか。奴の電話番号など知らんぞ」




「あ、じゃあ電話帳で」




「載ってるのか? 携帯だろう?
 ん? ……載っているようだな。個人情報はどうなっている。
 やれやれ、仕方がない。
 奴の声を聞くのは不愉快だが、俺も疑惑に興味がないわけではないからな」



Pioneer 留守番電話機 シルバー TF-V53-S


「……はい、もしもし。誰だ?」




「俺だ」




「てめっ、八神か! なんでてめぇが俺の番号知ってんだよ、気持ち悪ぃな。
 個人情報はどうなってんだ」




「俺も貴様に電話をするなど臓物が煮えくり返りそうだが、
 今日は貴様にひとつ確認しておきたいことがある」




「何だよ」




「今、美形会議を行っているのだが、
 貴様の顔がKOF'94とKOF'95で違い過ぎるとの議題が上がっている。
 貴様はその間、整形手術を行ったことはないか?」



「あ? 何言ってんだ。'95? デモ絵の画風が変わったんだよ。
 んな当たり前のことでわざわざ電話してくんじゃねぇよ。
 ったく、相変わらず鬱陶しい野郎だぜ。じゃあな、もう二度とかけんなよ」



「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「……切れたぞ」




「……そう、みたいやな」