あず画伯
弟会議第二幕〜月に咲く華、散りゆく花〜
「……遅いな、アンディさん」




忘年会やらがあって忙しかったみてぇだからな。
 もう来ねぇんじゃねぇのか?」




「ふわぁ〜あ…… あ、失礼」




「てめぇらあの人が信じられねぇのか! 来るっつったら来るんだよ!
 すっ呆けてんじゃねっぞぉぉぉ――――っ!!」




「しかし、色々と忙しい人気キャラだからな。
 スケジュールが合わなくなったという可能性も否定できまい」




「まぁ、来ねぇんなら来ねぇで別に良いんじゃねぇの?
 あの人、ちょっとひがみっぽいしさ」




「確かに、それは言えますね」




「野郎ぉ! どの口でほざきやがる! ええ!?」




「待ちたまえ、火月君! 私とてあの方を信じていないわけではない。
 だが、やはりスケジュールの問題が気に掛かるのだ。
 大物俳優がドタキャンというのはこの業界ではよくある出来事だと聞く」



「なるほどなぁ…… 確かに俺達とあの人じゃ住む世界が違い過ぎるってのはある」




「俺も月華の剣士の主人公だが、まぁあの人も数だけは出てるよな」




「!? 待ってください! ……この気は!?」




「こ、このプレッシャー!」




「ぅうおおおおおおおおぉぉぉああああぁぁ――――っ!!
 やっぱり来てくれたぜぇぇ――――っ!!」




「来るのか!」




「!!?」




「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」




「ア、アンディ氏!」




「来たぁぁぁ――――っ!!」




(あ、相変わらずなんというオーラ!風格!品位!格調!スケール!
 この私をしてまるで歯が立たんと認めざるを得ない!
 りかりんにも愛されているし)



「お久しぶりですね、アンディ・ボガードさん」




「待ってましたよぉぉ――――っ!!」




「やぁ、わざわざ集まって貰って悪いね。
 すでに僕のジャーマネが通達してあると思うけど、今日は二回目の弟会議を行う。
 まずは自己紹介をしてくれたまえ」



「ぅうおおおおっしゃぁああ――――っ!!
 一番手行くぜぇぇ―――っ!! サムライスピリッツの弟キャラ!
 風間蒼月の弟、風間火月だぁぁ―――っ!!
 熱くて死ぬぜぇぇぇぇ――――っ!!」


「おう、月華の剣士の弟キャラ、楓だ。
 兄は御名方守矢、姉は雪。どっちも義理だがな」




「餓狼伝説の弟…… あ、いえ、秦崇雷の弟、秦崇秀です」




「うむ、餓狼伝説の弟キャラの崇秀君だね」




「え? あ、はい。アンディさんの次の弟キャラの崇秀です。
 今日はよろしくお願いします」




「うむ」




「どうも。風雲黙示録及び風雲SUPER TAG BATTLEの弟キャラ、
 マックス・イーグルと言います。兄の名はアックス・イーグル。
 恐らく現在、真獅子王と名乗っ」



「長いな、キミ。もうその辺で良いだろう?」




「……あ、はい」




「いやぁ、それにしてもNEOGEO BATTLE COLISEUMは面白いなぁ。
 僕がこんなにハマったゲームは餓狼2以来だよ。
 道場のPlayStation2が熱暴走しっ放しだね」



「そ、そうですか?」




「ま、まぁな」




「アンディさんが認めるほど面白いッスか!
 俺も帰りにコンビニで買って来るッス!」




「フッフッフッ、そりゃあ面白いさ。
 もちろんチームは崇秀君と楓君の弟チームでプレイさせて頂いているよ。
 フッフッフッフッフッ」



「そ、そりゃどうも」




「光栄ですね。兄共々久しい表舞台で存分にアピールさせて頂きました。
 帝王宿命拳を駆使した削りがオススメですね。
 削った後にさらに光輪殺でしゃがみガードを崩しに行くのが常道ですよ。
 是非アンディさんも使ってみてください。それから帝王神眼拳を起き攻めに」


カッ!




「うっ!」




「君は前回の会議を忘れてしまったのかね!?
 ストライキだよ、ストライキ! 弟キャラの環境改善を求めて
 僕達の方から動きを見せようという決意を忘れてしまったというのかい!?」



「い、いえ、それは……」




「それが何だね!? そのNBCのアイコンは!
 さっさと餓狼3の野暮ったい顔に戻らないか!」




「そうだァ――ッ! 野暮ったい顔に戻らねぇか――ッ!!」




「は、はい、失礼しました」




「楓君! 君もだよ!
 厳粛な会議の場に、何だね! その非常識な金髪は!
 会議のときに覚醒楓は礼節を欠くと君はお父さんから教わらなかったのかね!?」



「べ、別に良いじゃねぇか、覚醒しててもよ。
 俺はオファーがあったからNBCに出たまでで、
 ア、アンタにそこまで言われる覚えは、ね、ねぇんじゃねぇの?」



「なんだって!? じゃあ君は何か!
 会議の場に暴走庵君が来ても有意義な会議が行えると言うのかね!?」




「そうだァ――ッ! 炎邪が来ても会議になんねぇぞ―――ッ!!」




「ぼ、暴走庵に炎邪って…… 俺はまだ普通に会話出来るじゃねぇか!
 アイツらと一緒にしてんじゃねぇよ! 俺はマトモだよ!」




「一緒だ!」




「一緒だァ―――ッ!!」




「な、なんだよ、てめぇら…… そうかよ、俺が悪いのかよ……」




「……申し訳ありませんでした」




「解れば良い……」




「解れば良いんだァ―――ッ!!」




「なるほど、まぁそこは穏便にというわけですね」




「うむ、で、ときに火月君、サムライスピリッツ 天下一剣客伝では
 もちろん火月君を使用させて頂いているよ」




「ホントッスか!? めちゃ嬉しいッス、マジで! ガンガン使ってやってください!」




「…………」




「あの、度々口を挟むようで申し訳ないのですが、今日の会議の議題の方は……?」




「……ふぅ、この会議の重要性を解ってくれてるのは、誰だっけ?
 あ、そうだ、イーグル君だけだよ」




「恐縮です」




(今、誰だっけ?って言った……)




「今日の議題は弟枠についてだ。
 各シリーズにおける弟枠について話し合いを持ち、問題点があれば列挙。
 最終的には弟枠の拡大を上に申し立てるものとする!」



「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!!
 すげぇぇ―――っ! すげぇ会議だぜ、こいつぁぁ――――っ!!」




「頑張りましょう」




「では早速始めるが、まず弟枠という物の解説をしなければなるまい。
 僕が独自に算出した資料によると、各タイトルには弟枠というものが存在している。
 つまり、一つのタイトルには最初から設定された人数しか
 弟キャラは出場出来ないのだ!」


「お、おおお!」




「な、なんてこったぁぁぁ――――っ!!」




「そんなことが現実に存在して良いのでしょうか」




「是非、資料の公開を」




「うむ、珍しく僕が出なかったタイトルを見て行くと解り易いだろう。
 まず、餓狼MOWだが、このゲームの弟キャラはジェイフン君、カイン君で二枠。
 僕が呼ばれなかったことを考えれば初めから二枠しかなかったということが解る。
 次にKOF2003だが、このゲームの弟キャラはK'君だけだ。つまり初めから一枠。
KOF MAXIMUM IMPACTだが、ソワレ君とやはりK'君、これは二枠。
NBCは崇秀君、楓君、K'君で三枠。KOF11はK'君一人でこれも一枠しかない。
これでは飽和状態の弟キャラ達の出場枠としてあまりにも狭くはないだろうか?」


「…………」




「…………」




「…………」




「……?」




「……えと、あの、何故アンディさんが呼ばれなかった時点で
 弟枠が終了という前提で話が進んでいるのでしょうか……?」




「……私もそれが気になりますね」




「何か七行もあったんでよく解らなかったッス」




「な、何を言っているんだ、君達!
 次枠は僕だったに決まってるじゃないか! 僕以外に誰がいるって言うんだい!?」




「あの、それはアンディさんが出場出来なかったタイトルでは、
 他の弟キャラ達にアンディさんが枠を巡って競り負けた、ということなのですか?」




「おま、お前は何を言っている!?
 そういうことじゃないんだ! 僕はそういうことを言っているんじゃないんだ!
 そもそも弟枠が少な過ぎるからこういう不幸が起こる!
 今こそ弟枠の拡大が必要だとは思わないのかね!?」


「いえ、確かにその通りです」




「その通りだァァ―――ッ! 弟枠を拡大すっぞォォァァ―――ッ!」




「そうだ! その通りなんだ!」




「具体的にはどのような交渉をするのでしょうか?
 大掛かりな活動ですし、何か武器となる後ろ盾が必要に感じるのですが」




「そうですね、他キャラとの兼ね合いや容量の関係もありますし」




「え、あ? それは、そうだな…… どうしよ。
 そうだ! ストライキだ! 僕ら弟キャラは今後一切、
 SNK PLAYMOREのゲームには出ない!!



「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!! ストライキだぁぁぁ―――っ!!
 ストライキの意思を表明するぜぇぇぇ――――っ!!」




「人気キャラである貴方が先頭に立ってストライキですか!
 勇気のある決断です。素晴らしい!」




(今、どうしよって言った……)




(絶対言いましたね……)




「とにかく、君達の拠り所とするNBCだとて、
 僕が斬影拳のキレを餓狼2レベルに戻す修行を理由に辞退したからこそ
 君達に枠が回って来たのだということを忘れてはならない。
 夢の舞台に弟枠がたったの三枠というのはあまりにも酷い冷遇と言えるんじゃないかな」


「ぅうおおおおぉぉぉ―――っ! 何てこったぁぁぁ――――っ!!」




「よしっ! 今、この瞬間よりストを決行する!
 僕を中心とした弟キャラ達を懐柔すべく、僕を始めとしてポリゴン化等の誘惑の魔の手が
 SNKの方から伸びて来るだろうが、それに決して屈してはならない!
 弟枠の拡大! これこそが絶対の大義である!」


「ぅうおおおおぉぉぉっしゃあぁぁぁ―――っ!」




「す、素晴らしい! 素晴らしいスピリッツだ!
 我々は最高のリーダーを持った!」




「……あの、一つ良いでしょうか?」




「む、何だい? 僕の決定に不満でもあるのかね?」




「いえ、弟枠が拡大されるならそれは僕も嬉しいし、
 今回のストで結果が出ればそれは良いことだと思います。
 でも、僕達が新作を回避したとして……」



「……どうしたんだね?」




「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!!
 楓てめぇ何が言いてぇんだぁぁぁ――――っ!!」




「火月君、落ち着いて聞こう」




「はい、その、先の資料で一番名前が出て来たK'さんですが、
 彼が新作に率先して出場していては僕達がストを行っても意味がないのでは?」




……!?




「おおっ!?」




「……?」




「確かに、今一番人気のある弟キャラと目されているK'さんが
 ストに不参加なのであれば、逆にSNKにK'さんだけが居れば良いと
 開き直る道を残すことになるのでは……」



「おまっ、お前は何を言っている!? そんなわけはないだろう!?
 そんな若造一人に…… おまっ、お前は何を言っている!?」




「しかし、やはりこの議題を話し合うにおいては、
 会議にK'さんを呼んで彼の意見を聞く必要があったのではないでしょうか?」




「そのK'って奴は何で呼ばなかったんです?」




「僕が必要ないと思ったからで特別な理由はない」




「あの、それで僕思ったんですけど……」




「……何だね?」




「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!!
 楓てめぇ何が言いてぇんだぁぁぁ――――っ!!」




「はい、あの、枠を空けるということでしたら、
 ストを起こすよりむしろ最近の新作で必ず一枠を埋めている
 K'さんに消えて貰った方が確実なのではないでしょうか?」



……!?




……!?




……!?




「……?」




「あ、いえ! 消えて貰うと言いましても、殺…… 命を……
 いえ、新作から退いて貰うという意味ではなくて、
 弟枠を使わずにですね、主人公枠だとか、兄でなく姉持ち枠だとか、その辺へ移籍し……」



「……楓君、キミの刀は疾風丸って言うんだってね、フッフッフッ」




「あ、はい、そうですが……」




「……よく斬れそうだね。肉とか」




「は、まぁ、その、日本刀ですから……」




「……そうだね、後で個人的な話でもしようじゃないか。
 夜にでもジャーマネから連絡が行くと思うから」




「え?」




「じゃあ今日はここまでということで。皆は解散して良いよ、フッフッフッフッ」




「は、はい。お疲れ様でした」




「で、では、私はこれで」




「ぅうおおおおっしゃああぁぁ――――っ!!
 帰って十五時間は寝るぞぉぉぉ――――っ!!」




「フッフッフッフッフッフッ…… いやお疲れ様。
 今日は実に良い会議だったね。ねぇ楓君? フッフッフッフッフッフッ……」




……え?