餓狼が堕ち、サムスピが滅び、
続編でその完成度を取り戻すも失った信用はもはや回復不能な状態でした。
というわけでお祭りバトルのはずが最後の砦となってしまったKOFシリーズ。
前作から1年のインターバルを置きながらも
京、庵人気は翳ることを知らずむしろ逆に激しく過熱しており、
今作でまた彼らに会えると思うと胸が高鳴りました。
そしてついに発表されたKOF'96はほぼ完成していた95のスタイルを完全に捨て、
新たなるKOFとしてその姿を現したのでした。
すごーくイヤな予感。
というのもシステム大幅変更を行った餓狼3、斬サムはとても商品になる代物ではなく、
今度のKOFもまた中途半端な作りで見切り発車な状態ではないのか?
そんな予感をプンプンと漂わせてしまっていたのです。
そしてついに発売を迎えたKOF'96は……
やっぱりダメでした!
'95までのシステムはどちらかと言えば“静”、
スト2ライクな対戦格闘の見本のようなシステムだったのですが、
やはりSNKが格ゲーに求めるのは“動”なのか、
この'96は完全に攻め重視のシステムに変更されました。
避けた瞬間動きが止まるのが不満だったというKOFの肝、攻撃避けは、
無敵時間を持ちながら前転、後転で前後移動する“
緊急回避動作”となります。
これにより相手の技を潜って反撃という流れるような攻めが可能になりましたが
相変わらず投げには弱く、終わり際にスキもあるので乱用は禁物。
攻撃避けと比べると遥かに使いづらいものの、
“動”のKOFにはなくてはならないシステムとして定着します。
しかしゲーム性を一変させたのは実は他の部分で、ずばりジャンプ関連。
通常ジャンプの他にバグから生まれた大ジャンプがあった今までのシリーズですが、
今度は“
小ジャンプ”、そして“
中ジャンプ”が搭載されました。
小ジャンプはそのまんま小さいジャンプで、
中ジャンプは小ジャンプの高度で長い距離を移動出来るという、
ちょっとした突進技のような強力なジャンプとなっています。
これにより空から一気に接近し畳み込むように攻めるのが基本スタイルとなり、
完全にKOFは攻めのゲームへと変貌したのです。
このジャンプの使い分けは初心者には少し難しく、
やや敷居が高くなってしまいましたが、新たなる爽快感、
攻めの面白さを提供するにはこれもなくてはならないシステムでした。
他にもダッシュが今までの“
一足飛び”から“
ラン”になったり、
前作で問題だったガードキャンセルは攻撃力を持たない“
ガードキャンセル前転”に、
さらにガード耐久値が限界を超えると弾かれてしまう“
ガード弾き”が導入されるなど、
攻めのシステムが大幅に強化されました。
ちなみに今では大抵のゲームに採用されているガード弾きは
今作が元祖だったりします。
で、ここまで見るにとても近代的、かつ完成度の高いシステム群なのですが、
結局何がダメだったのかと言うとそのものズバリ、
コマンド投げとふっとばし攻撃が異常に強い。
てかそれだけで良い。
というわけでまたシステム構築に心血を注ぎながらも
基本的な部分の調整がままならないままに発売してしまった、と。
コマンドが非常に入り難いのもマイナスポイントでしょう。
で、コマンド投げ+ふっとばしと言えば…… だ、
大門!
一応、攻めが強くなった代わりに高すぎた攻撃力は抑えられ、
パワーMAX時の攻撃力も1.5倍から1.25倍へと下げられてはいるものの、
またしてもボクは奴の悪夢にうなされることになりました。ガクガク
対戦はイマイチだったけど、CPU戦でバグ技の多段ヒットを
猿のように楽しんだのでお気に入り度はこんなとこで。
今作で他シリーズに続いてKOFも堕ちたかと思いきや恐るべきはキャラ人気でして、
見捨てられるにまでは至りませんでした。
しかし
「KOFはキャラゲー」などとのたまう輩を増やしてしまうことになったのです。
THE QUEEN OF FIGHTERS
KOF'96の発表が近づくにつれ大きく関心を集めたのが新キャラクターだった。
それもそのはず'94で草薙京、'95で八神庵という
一騎当千のキャラクターを生み出してきた奇跡のシリーズだ。
それはもう庵級の新キャラが追加されて当然という
今にして思えばかなり無茶な期待を集めていたというわけである。
しかし追加された新キャラはなんと女性キャラが5人も!
ハイデルン、タクマ、影二という濃い目のキャラが消えてことごとく女性キャラが5人!
女性キャラは各ゲームに1人が普通、続編物で追加があってやっと2人かな?
という当時の常識を覆すこの大暴挙!
もはや完全にかつての硬派な姿を失ったSNKを象徴する作品となった。
一応名前を挙げるとハイデルンの養女、レオナ。
前作、前々作のデモに登場、ルガールの秘書のマチュア、バイス。
龍虎外伝からの登場となる藤堂香澄。最後に中ボスの神楽ちづるだ。
香澄は例によって
娘は良いから親父を出せ!との怒号を浴びることになったが、
本音を言うと娘のほうが良いのは動かし難い事実である。
しかしこの香澄は父親、つまり行方不明の竜白を捜していたはずなのだが……
い、居るぅ!
EVANGELION OF FIGHTERS
そしてKOF'96発売時期に狂乱の大ブームを起こしていたのがアニメ、
新世紀エヴァンゲリオンである。
そのため今までも所々アニメ、特撮からのネタを盛り込んでいたKOFだけに、
今作にはエヴァネタがたくさん散りばめられる運びとなった。
特に新キャラのレオナなどは……
うわぁ。 |
セリフ、髪の色、シャギーから
無口無表情の性格までコピー…… |
庵も今作から加わったMAX超必殺技で……
し、使徒を食ってる!? |
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収録されている『男の戦い』で暴走した初号機が同じ様に喰う→
エヴァ中、最も熱いエピソードについついパクってしまっ…… |
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ユリなどは完全にエヴァネタ要員にされ、
挑発が「アンタばかぁ〜?」、勝ちボイスが「サービスサービス!」になった。
他にも勢いでか今度はもう所々などという次元ではなく
露骨にマニアックなアニメネタが山のように、
それこそ当たり前のように盛り込まれ……
いやホントキャラゲーです! すんません!
と、一気に
別のベクトルで 濃くなったのでした。
力が勝手に……! ゥヤッホーイ!!
THE SAIKYOH OF FIGHTERS
攻め重視になった今回のKOFでは、今までの跳ばせて落とす戦法などは使えない。
というか、使わせないためにシステム段階で大きな手が打たれている。
かなりのキャラの
飛び道具が飛ばなくなっているのである。
この変更でガラッとキャラが変わってしまったのがかの極限流の面々だ。
虎煌拳、龍撃拳で跳ばせて、KOFではやたらと強い
ビルトアッパー(虎咆、龍牙)で落とすというのが彼らの基本だったのだが……
が、我道拳になっとる!
しかも龍虎マニアが溺愛している
暫烈拳がない!
この後の続編でも極限流は散々イジり倒され、
リョウに猛虎疾風拳やら天地覇煌拳やらダッサいネーミングの技が付けられ、
ユリは毎年カプコンキャラの技をパクるネタ要員になり、
ロバートに至っては溜めキャラに…… っていうか
龍撃拳の絵がソニックになって
龍虎外伝からの
サマーも装備で
モロガイルにされたりした。
ああ……
KOFスタッフは覇王翔吼拳のようなセンスの良い技名を付けられないのだろうか……
つーか、リョウの虎煌拳は虎、つまりロバートを煌(うやま)う拳で、
龍撃拳は龍(リョウ)を撃つ拳なんじゃよ。お互いのライバル心の証なんじゃよ。
リョウが無敵の龍でロバートが最強の虎なんじゃよ。
リョウの技に猛虎猛虎付けるのは間違いなんじゃよ。ブツブツブツ……
PICKUP
FIGHTER |
ギース・ハワード
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庵と比べると遥かに不発だった'96の新キャラ達。
そんな中で今作の目玉になるチームが―― ボスチームだ!
あの餓狼、龍虎のボス達が! ギースが! クラウザーが! Mr.ビッグが!
ついにチームを組んでKOFに乗り込んで来たのだ! も、燃えるぅ!!
その中でも一番の注目はやはり悪の華ギース様!
今作でも華麗な当て身投げで並み居る猛者をバッタバッタと投げ飛ば……
と、思ったら当て身発動までに一拍あって出が遅い!
それでなくても中ジャンプメインのこのゲームでは反応が厳しいというのに!
いやまだだ! まだギース様には伝統の烈風拳がある!
烈風拳で意図的に跳ばせれば当て身の準備などたやすくッ……
我道拳になっとる!
結局、烈風拳と当て身を失ったギースは
多段ヒットのジャンプ強Pと疾風拳で飛び回る、ハエのようなキャラになっていた……
また、同ボスチームの他の面々だが、
ギースは言わずもがなの格ゲーラスボスの代表。
クラウザーは餓狼2のラストボス。
ビッグは……
龍虎1のボス=Mr.KARATE(タクマ)
龍虎2…… 若ギース……
外伝…… ワイラー…… ていうかそもそもビッグ出ない……
お前ボスちゃうやん。
三流やん。
JOE伝説出張版
今作からさすがに一般大衆向けの大ハードメーカーという自覚が芽生えたのか、
ユリ、キングの脱衣がなくなった。
というか今まで平気で脱げていたのが今となっては信じられない。
だが、その心の隙間を埋めるべくその身を捧げる救世主が居た!!
そう! 我らがメシアであるこのお方!
押しも押されもせぬ露出度No.1のこの方だぁ!!
オラオラァー!
……帰れ。
本当に帰って下さい。
空耳'96
▼オラ、乳がデカい
有名なチャン・コーハンの勝利ボイス。確かにデカい。
「オラッ!次出て来い!」と言っているものと思われる。
▼えっ にッ!? クソ野郎ォー!
アテナにしろさとう珠緒にしろ、アイドルの言うセリフではない。
▼シャー! カツラじゃ、ねぇんだコラ!
バンダナで隠された闇を垣間見ることが出来るラルフの勝ち台詞。必死すぎだ。
「シャー!器じゃ、ねぇんだコラ!」
KOF'96 STORY
'94、'95とは違い表舞台で行われる今年の大会。
今大会の主催者はルガールではなく、“護りし者”神楽ちづるだった。
ちづるは財閥の力を使ってKOFを開くことで
“払う者”草薙、そして“封じる者”八神をひとつところに集わせたのである。
大会前、京は野試合で何者かに敗れていた。
かつてオロチを払ったという大蛇薙ですらその男には通じなかった。
慢心を知った京は草薙家がオロチ復活の時のために生み出した
最終決戦奥義 無式を身に付け、KOFに乗り込む。
どこかであの男が見ていると信じて――
そして、八神の元へもKOFの招待状は届いていた。
しかし彼はそれを茶番と切り捨てる。庵は京を殺せればそれで良いのだ。
だが迷っていたのも事実。
八神家の怨念も、我が身に流れるオロチの血も関係無い。
ただ一個の八神庵として草薙京と決着をつけたい。
自分の意志とは別のところで草薙の血を求めるのは許せなかった。
ひとり古寺で瞑想にふける庵。
そこへやって来た気配はかつてルガールの秘書をやっていた女達、
マチュアとバイスだった。
庵が京を殺すサポートがしたいと一緒にKOFへ誘う女。
庵は彼女達が何者なのかを見抜いていた。
……オロチの女。
神話でヤマタノオロチと呼ばれたモノはオロチが率いた八人の血族、
オロチ八傑集のことだったのだ。
そしてこの二人の女はその内の二つの首。
彼女達はオロチの力を奪い取ったルガールを監視するため、秘書になりすましていた。
一度は封印した八傑集の魂を解放したのは
今は八神として歴史を刻む660年前の八尺瓊である。
庵が彼女らの正体を見抜けないはずがなかったのだ。
今回の彼女達の任務は八神の監視。
オロチの力の封印が解かれ、その影響を色濃く反映する八神庵の監視だった。
では何者がオロチの封印を解いたのか?
それは、吹き荒ぶ風のゲーニッツという男だった。
八傑集の中で特に力の強い、自然を操るオロチ四天王の一人。
牧師という立場から物腰は穏やかだが、その根底に流れる血は残忍獰猛。
ゲーニッツは神楽が護っていたオロチの力の封印を、ちづるの姉を殺すことで解放。
主であるオロチの意思に従い、それそのものの完全復活を目論んでいた。
京を倒した男もこのゲーニッツだった。
そしてそれは1800年前から何も変わらぬ古い技では
もはやオロチに対抗できないことを示していた。
草薙、八神、そして神楽が集うKOF。
それはゲーニッツにとっても格好の狩り場だった。
八神が封じ、草薙が払う。
奇しくも1800年前にオロチを封じた通りの二人の連携。
庵が無心で放った炎は蒼く禍々しいオロチのそれではなく、
紅い、かつて草薙とひとつであった頃の紅く美しい炎だった。
敗北を知ったゲーニッツは自ら風に消え、信念に殉教する。
しかし純潔のオロチと接触した庵の身体には異変が起こっていた。
塞がる視界。暗闇に悶えながら京を求めて叫ぶ。
――血の暴走。
オロチの血を引く人間には避けられぬ悲劇。
獣と化した庵は監視の八傑集、マチュアとバイスに牙を向け、その命を奪う。
使い続ければ寿命が削られ、確実に早死にすると警告される八神の蒼い炎――
八神が草薙に求めるのは怨念ではなく、救いなのか。