6.哀愁

ロックがセカンドサウスに戻ってしばらくが経った。
その後、ハワード・コネクションやサウスタウンがどうなったのかは判らない。
この街には何の情報も入って来なかった。
かと言って何か生活環境に変化があったわけでもなく、人々は変わらぬ日々を謳歌している。
すでに街の市政の全てを握ったカインだが、そこに合衆国の権威が介入することもない。
街は不気味なほど何も変わらず、無関心で、そして静かだった。
その静寂の全てが、秦の秘伝書に収束している。

――拳技の書、気功の書、そして政治の書。
かつて、それら全てを手にしたギース・ハワードに合衆国は何の手出しもしなかった。
それが大量の核にも等しい兵器であることを権力者達は知っていたのだ。

拳技はヒトの骨子など容易く粉砕し、気功はヒトそのものさえ超えさせる。
千騎を屠ると伝わるその武力は、近代兵器でさえ御し切れるモノなのか。
あるいはそれが肥大化した伝承であったとしても、
時の支配者達が何より恐れたのは政治の書による、妖術とぼしき人心掌握の記述だった。
マインドコントロールによって思想を統一された人外の戦闘力を持った集団。
すでにどの国の主要人物が妖気にあてられているものか。
その上に三本の秘伝書に選ばれる器の皇帝が立つのだ。

幸いにしてギース・ハワードは外の国々には執着を見せず、
何故かサウスタウンという街に留まっていたため、時の権力者が動く機会は訪れなかった。
もしギース・ハワードが本気で動いていたならば、
合衆国の武力さえも魔術のように彼の物になっていただろう。
故に真実は手出しをしなかったのではなく、動かなかったのでもなく、何も出来なかったのだ。
圧力を受けるべき力関係はすでに逆になっていた。
言わばかつてのサウスタウンは数年、事実上の独立国家と言って良い存在だったのである。

ならば、今、再び秘伝書の力を行使せんとするカイン・R・ハインラインはどうなのか。
世界は再び生まれた独立国家に対し、静観するしかない。



カインのオフィス。ロックがこの場所に呼ばれるのは二度目だった。
ここの主と向き合うのは怖い。
目を見るだけで人の感情が解ると聞くカインの異能も、
ロックにはあながち眉唾の噂とは思えないものがあった。
それだけカインの赤い瞳には突き刺さるような強い力があったのだ。

だが、今この場で見たカインの眼には、ロックの知る力はまるでなかった。
ただ怖いだけの、病んだ瞳。頬のやつれは増し、動かない表情には狂気さえ感じた。
舌が渇き、声が出ない。
この異様な恐怖感はカインのみから発せられているわけではない。
デスクの上に無造作に並んだ巻物は、今は静かに時を待つ秦の秘伝書に違いなかった。

「――ロック…… この秘伝書がどういった物であるか知っているか?」

「……いや」

声が擦れる。その反応を見たカインの表情はさらに冷淡に見えた。
カインは席を立ち、意味もなく部屋を歩きながら遠くを見て語り出した。

「――かつて、秦の始皇帝の護衛に秦王龍という男がいた。
 王龍は文武に長けた有能な男だったそうだ。
 だが、現代に残る彼についての伝承では彼は魔術師として扱われている。
 何故か解るか? 彼の残したモノがあまりにも人知を超越していたからだ」

それが、

「……秦の秘伝書」

「そうだな、拳技、気功、政治からなる三本の秘伝書。
 彼がどうやって当時の文明の中でこの巻物を残せたのかは定かではないが、
 これは間違いなく秦王龍本人の手で記されている」

――私には読めないがね。

自嘲気味にそう付け加えたカインがこの場で初めて笑った。
ゾッと、ロックの背筋に虫が走る。

「だがそれはすでに多くの体現者が存在している以上、魔術とまでは言えまい。
 お前が使う“気”もその一つなのだよ、ロック」

いつしかまた椅子へ戻っていたカインがロックを見て言う。
――知っている。
ただ、テリーに聞いたことがあったのか、聞かずとも知っていたのか、記憶が混濁して判らない。

「身体が丈夫でなかった始皇帝は晩年、盲目なまでに不老不死を求めたという。
 その研究に王龍が当たったのも当然と言えるだろう。
 彼は秘伝書を残す傍ら、不老不死の究明へ没頭した。
 だが、不老不死を求める始皇帝の物語の中に彼の名前はない。
 いや、始皇帝の物語そのものに彼の名がないのだ。
 あるのはただ、彼の子孫とされる一族の草臥れた伝承だけ。彼の名は歴史の中に消えている」

――秦王龍は消えていない。

「だが、彼の存在は消えはしなかった。
 いや、存在が残っているからこそ彼の名は消えたのだ。
 忌むべき魔術師として。秦王龍こそが不老不死へと辿り着いていた。
 魂を霧に、秘伝書へと宿して、常世へ果てることなく、永遠の時間を今も生きている。
 ――今も生きているのだよ、この男は! こんな紙切れの中で!」

感情を露に、カインは机を殴打する。
三本の秘伝書が衝撃に逆らうこともなく、
ただのモノのように跳ねる当たり前の姿が、今は挑発的に見えた。

「――それは決して不老不死などではなく、明らかに呪われた技法だった。
 秦王龍の名は忌避とされ、秘伝書は炎の中へ葬られ、一族は追放された。
 だがそれでもいつか三本の秘伝書は最強の男の元へ集うという伝説は消えることなく、
 不死身の完全体を求めて秘伝書を巡る争いが幾度も起こった。
 彼は待っていたのだ。武を誇り、政も兼ね備えた彼の写し身に相応しい男を」

目眩がする。その中で駆け巡る不確かな男の姿。
それは父ではなかったか。

「これを三本手元に置くのはビリー・カーンと言えども恐ろしかったのだろう。
 一本は私に相続されたよ。“友好の証”としてね」

「……お袋の話があるんじゃなかったのか?
 秘伝書の話なんざ聞いちゃいねぇんだよ……」

「まだ解らないか? ギース・ハワードは三本の秘伝書を揃えたのではない。
 秦王龍という太古の亡霊に取り憑かれていたのだ。ならば――」

目眩が深まる。

「亡霊に憑かれた男の息子はどうだ?」

カインの眼に再び穿たれた。
だがそれは感情を奪うものではなく、ただの毒々しいまでの棘。
憎しみ以外の感情が感じられない。
心臓が跳ね上がる。音が聞こえ、強烈な吐き気がロックを襲った。

「ソレを身篭った女は死んだ。何故だと思う?」

「あ、あ……」

「お前は呪われた子なのだ、ロック・ハワード」

ロックは力なくカインを見上げ、大量の発汗と共に、息を切らせることしか出来ない。
それを見下ろすカインからはすでに感情が失せていた。
あれだけ力のあった赤い眼でさえ、今は何の色も灯してはいない。

「……そう、姉さんは呪われてしまったんだ。
 呪われた子の傍に居続けた姉さんの衰弱は医学の領分ではなかった。
 魂が抜けてしまったんだと、ギース・ハワードはそう言ったよ」

「ギースが……?」

声を絞り出す。

「私がギースを秘伝書の研究者だと認識したのはその時だったな。
 彼はメアリーの肉体を保存し、私に託した。
 魂は消えてしまっても、肉体は死んでいなかったからね」

「母さんが、生きているのか……?」

「何を驚くことがある? 最初にそう伝えたはずだがね」

母、メアリーの死をロックは確かに看取った。
教会で行われた葬式は、生前の彼女の身なりからは似合わぬ大きなものだった。
それははっきりと覚えている。
だが、その後、彼女の遺体がどうなったのか、彼は知らない。
シスターが全て代行してくれたものだと、そう認識していた。
母の本当の最期を、彼は知らないのだ。

「魂さえ戻ればお前の母は現世に戻れる理屈になる」

「方法は……?」

「だがその方法にはギース・ハワードでさえ辿り着けなかった」

すでにカインはロックの声に動くことはなく、その語りは独白に近かった。

「いや、辿り着いてはいたのかな。だがギースはその方法を取らなかった。
 お前はギースに捨てられたと感じているようだが、
 その言い分に従えば姉さんは二度も捨てられたことになる」

――簡単なことなのに。

「王龍に聞けば良かったのだよ。
 大人しく肉を明け渡し、王龍の知見で姉さんを戻せば良かったんだ」

「出来るのかよ、本当に、そんな……」

「なのに彼はそれをしなかった。
 とはいえ、別に私にそれで義兄を責める気はないよ。
 秦の老人に肉体を明け渡すなどと、およそ怖気の走ることだ。
 妻とはいえ所詮は他人のために、そこまでしろというのはいささか酷というものだろう。
 ――だが、私は違う」

カインにはもう何も見ていない。

「姉さんのためにならジジイの生け贄にだってなってやるさ!
 ギースの街を再び甦らせ、その姿を姉さんに見せてあげるはずだった!
 姉さんは喜ぶだろうか? それとも悲しむ? だがそんなことは考えるだけ無意味だろう。
 ただ姉さんがあの時のまま、もう一度やり直せればそれで良いのだから。 なのに……!」

三本の秘伝書を片手で握り潰し、歯を軋ませて震える。

「私には秘伝書が読めないのだよ、ロック君!
 王龍が私の肉体など要らぬと言っているのだ! 私では不足だと!
 この秘伝書は私の手に集まったのではないのだと!」

荒々しく投げつけられた秘伝書がロックを打った。
転がるソレからは甘い妖気が溢れ、誰かを誘っているようだった。
誰かを……? いや、初めからソレはただ一人だけを誘っている。

「解ってはいたのさ…… ギース・ハワードの元へ集った秦の秘伝書。
 私の手には届かぬ存在だと、解ってはいたのだがね。
 だがやはり君を使うのは許せなかったのだよ。私が姉さんを救えればそれが一番良かった。
 ――だけどもう、そうは言っていられないしね」

幼き日より、夢で見続けたある男の一生。
最も近しい人間でありながら遠く、何も知らされなかった男の生涯。
眺めることすら許されなかったその断片を、夢で見ていた。
いや、見せられていた。何者かに。理解を超越した存在に。
暗黒の血に流れる秦王龍という男の燐分が、彼に父の闘いの歴史を見せていた。

「――お前はギースの予備なのだよ」

「クソォ……」

震えた。
叫びは天へ以外に向ける場所はなく、
また天を覆う黒い霧は叫びをすら容易に呑み込み、少年へ纏わり付くとその翼を溶かす。
目の前に立つカインの赤い瞳がグツグツと煮え滾り、亡霊の男と重なったように見えた。

「チクショオオォォォォォォ――――ッ!!」

繋がった夢は罪だけを運び、周到に、醜悪に、逃れられぬ黒点を刻んでいた。

「――それがお前の罪なんだ、ロック」

ソレを目掛け、漆黒の雷が轟音と共に突き刺さる。
ドス黒く粘りを持つ霧に包まれたロックに抗う術はなく、またすでにその気力さえ失っていた。
無抵抗の身体を陵辱して行く黒煙はとうの昔に醗酵したはずの魂。
強者の魂を次々と喰い物にし、より強い人間を求め彷徨う摂理を超えた害悪。
その終着点へと、秦王龍と呼ばれたモノは嬉々を上げながら喰らい付いた。

「さようなら、姉さんが愛した少年――」

霧が肉へと吸い尽くされ、項垂れたまま立ち尽くすシルエットだけが残った。
静かだが、静寂ではない。
部屋全体がドクンドクンと生き物のように脈打っている感覚が伝わる。

「――お前は、ロック・ハワードか?」

認識を新たに、カインが問う。
色を得たシルエットは身の毛もよだつ赤眼でカインを睨み返した。

「――知るかよ」

カインの背筋が急速に寒くなって行く。冷静に戻されて行くと言っても良い。
外と同じスピードで時間が流れているとはおよそ思えない空間。
空虚だった心に恐怖という理性が灯り、冷たい汗が伝った。

「――今一度語る必要はないだろうが、貴方が秦王龍ならば、メアリーの魂の復元をお願いしたい」

「クックックックックク…… お願い……? てめぇが俺にお願いか。ハッハッハッハッ!」

「――頭を下げろと言うのであればそうしよう」

「あんたの話だと、メアリーを殺したのは俺ってことになるよなぁ?
 それを俺にお願いか? 頭を下げるって? 馬鹿じゃねぇの、あんた! アッハッハハハ!」

――秦王龍ではないのか……?

だが、確実にロック・ハワードでもない。
自分の身体に秦王龍を降ろせたならば、何としてでも魂の復元を成しただろう。
例え己の魂が壊れようと、消滅する運命だとしても、最期の一瞬で姉を救う。
その決意があれば確信とすることが出来た。
それがもし不可能だったとしても、同志であるロック・ハワードが聞き出してくれたはずだ。
あるいは、秦王龍を屈服させてくれただろう。
その為のデッドリーレイブを、カインは敢えてその身で試している。
この力ならば、例え秦の亡霊だろうと従わせることが出来ると。
彼の父が、ついに亡霊に屈しなかったように。

だが、カイン・R・ハインラインの身に王龍を降ろす術が得られなかった今、
その役割りは逆となった。
この男を屈服させ、姉を救わなければならない。

「今一度問う。お前はロック・ハワードか? それとも――」

今度は確実な敵意を灯して、カインは笑う男を見据えた。

「かわいい甥を見る眼じゃねぇな、叔父さん?」

「貴様がロック・ハワードならばな。だが今は違うのだろう?」

「知るかよ…… って、言わなかったか?」

「――なるほど、二千年前の老人が跳ねっ返ることだ。
 力ずくというのも悪くはない。目を覚まさせてやろう」

カインが沈めていた手をポケットから抜くと、蒼いグローブはそれ以上の蒼炎に包まれた。
それを薙ぎ払い、火の粉を目隠しに瞬時に間合いを詰め、同時に直蹴りを打ち込む。
その軌跡にも鮮やかな炎が奔った。
これこそが崩壊したシュトロハイム家を調べ尽くし、
カインの有り余る天分で体得に至った、炎を生む気功術に他ならない。

それが片手で止められた瞬間、炎は強風に打たれたかのように消えた。
いや、実際、強風が渦巻いていたのだ。
ロックの周囲を包む“気”は静かな台風に等しかった。
壁掛けの絵画がガタガタと揺れる。中心に浮かんだ邪悪な笑みはカインを挑発した。

「……ッ!」

蹴り上げて、鎌を振り下ろすように両手を落とす。
その動作にも蒼い炎が迸る。生身で受ければ焼死体が生まれて必然の炎だった。
だが、炎はロックには届かない。
ロックが赤い瞳に気を入れるだけで炎は掻き消え、生身の打撃はいとも容易く腕に止められた。

「クラウザーの炎がこんな曲芸に成り果てるとはな」

空いた片手で髪をかき上げながら、ロックはさらに表情を歪めた。

「な、んだと……」

次の瞬間、カインは膝を突いて蹲っていた。
痛みが後から来る。何が起こったのかすら解らない閃光を浴びた。
そこから立ち上がれない自分の運命に恐怖した。

「秘伝書が何度焚書に遭ったか知ってるか?」

ゆっくりと、無防備に歩み寄りながら言うロックへ片膝を突いたまま掌底を打つ。
だが躱され、そのまま腕を掴まれたままアゴを蹴り上げられた。
飛び掛かる意識をロックの打撃が次々と繋ぐ。嬲るかのような連打。
暴力に晒され、カイン・R・ハインラインが何も出来ない。
屈辱に音を上げ放った炎はロックのグローブに潰されて消えた。

だが、今度はチリチリと湯気が昇っている。
ほう、と感心するロックの笑みは馬鹿にしたような歪みを持っていた。
その余裕を許さない。
脇に両手を構え気を収束させ、凝縮した光弾を目の前の標的へと打ち込んだ。

「――ヒムリッシュ・ゼーレ!」

片手で受けようとしたロックの右腕がふいに捻じれ、鮮血を噴く。
爆風にオフィスの備品は割れ砕け、ビルまでも鳴動する。
そのまま押し潰され、壁に激突したロックは小さく咳き込んだ。

「……私の曲芸もなかなかのものだろう?」

激しく呼吸で肩を揺らしながらも目線は切らない。
だが、これで倒せなかった時点で勝負は決していた。

「へぇ…… こんな気功も持ってたんだな、あんた。前は手加減してたのかい?」

再び、ゆっくりと歪んで行くロックの口元から、いつ死が宣告されるのか。

「君の本気が見たくてね。前とは逆の立場になってしまったようで残念だよ」

「ヘッ、安心しな。もうてめぇにデッドリーレイブは使わねぇよ。
 テリーにも使うなって念を押されてるしな。親父も封印してたんだっけ」

ヒムリッシュ・ゼーレの起こした振動は下階のSP達に異変を報せるには充分だった。
会話に割り込むように、銃を構えた黒服達がオフィスへと雪崩れ込んで来る。
気付いたロックが浮かべた酷薄な笑みが、彼らに銃器以上の死を突き付ける。
カインを襲っているのがロック・ハワードである以上、
カインの声なくしてSP達に発砲権限はない。確認を求める内に彼らは殺されるだろう。

「下がれ…… ただの戯れだ」

それを、カインは止めた。

「しかし……」

「下がれと言っている」

口篭もるSPを強引に下がらせる。
言葉以上に、その眼力に力があった。

「意外だな。あんたはもっと見苦しい奴だと思ってたよ」

「まかり間違ってお前に死んで貰っては困る」

「試してみれば面白かっただろうぜ」

その笑みに虚勢はない。

「貴様は、ロック・ハワードではないのだな……?」

「どうだかな。頭がゴチャゴチャして解らねぇよ」

言うロックにはぐらかしている様子はない。
ただ、吐き捨てるように不機嫌だった。

「――どういうことだ? メアリーはどうなる?」

ロックの言葉が止まる。それが苦悩ならば彼はまだロック・ハワードなのか。

「私を殺したければ殺せ。だが、我々の目的は忘れるな。
 ギース・ハワードの息子ならば、秘伝書の亡霊如き組み伏せてみせろ」

烈風がカインを床に転がす。

「……うるせぇよ」

ロックの左腕が振り上げられていた。

「お袋は取り戻すさ」

ゆっくりと近づき、すでに起き上がる力もないカインを人形を転がすように蹴り上げる。

「――――」

「だがこうしてると気分が良いな」

ロックは傷の刻まれた右腕でカインの胸倉を掴み上げ、口の端を吊り上げた。

「てめぇにやられた傷がギチギチ言ってやがる」

甘い痛みは頭に被さって消えない靄を忘れさせてくれた。
ただそれだけで幾分スッキリする。
すぐにまた不快は襲い掛かって来るだろうが、今は切り詰められるならそれが永遠に思えた。

「――痛ぇな。頭のモヤモヤが晴れて手が届きそうなんだよ。
 もっと闘わせろよ、カイン。とびっきり強い奴が良い。
 そうだ、テリーが良いな。テリーなら俺をぶっ飛ばしてくれそうだ。
 でもテリーだけじゃ足りねぇよ。もっとボコボコにしねぇと血が収まらねぇんだ。解るよなぁ!」

掴んだ腕を振り払い、カインを再び転がす。
その脇腹を踏みつけたまま、怒鳴るように続けた。

「血管の中で黒いヤツがギャーギャーギャーギャー騒ぎっ放しなんだよ!
 KOFだ! 俺と闘える奴を全部この街に連れて来い!」

カインはロックの足を掴み、半身に起き上がると、苦しげだが笑って応えた。

「……それは、楽しみだ、な」


【7】

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