ギースは感動に打ち震えるように、椅子から立ち上がり、拳を握っていた。
彼が見ている物は、ファクトリーの監視カメラが映していた
リョウ・サカザキとMr.BIGの闘いである。

序盤はBIGが押していた。
グランドブラスターなどと言うらしい、
BIGが手にした拙い気の飛び道具を嘲笑しながらも
僅かな期間でここまで体得したBIGの戦闘センスはさすがだと感嘆した。

実力的にはBIGの方が上だろう。
それは戦前のギースの予想の通りの展開だった。
巧みに捌かれるBIGの二本の棒のリーチにリョウは間合いに入れずにいる。

気を撃とうとすると、BIGは転がるように間合いを詰め
リョウの喉元に棒を突き立てた。
気力を充実させる隙も与えてはくれない。

なるほど、格闘家で獲物を仕留める技術をここまでのレベルに高めるのは難しいだろう。
まさに戦場で人を殺して来た拳だ。
一片の隙なく、確実に死点を狙い、突く。
相手に何もさせないで殺す技法をBIGは限界まで鍛えている。
リョウはなんとか命を延ばすのに精一杯だ。

ロバート・ガルシアが乱入して来たがそれは変わらない。
BIGはいつも複数を相手に戦場を駆けて来た男だ。
むしろ2対1という精神的優位、相手への依存の隙を突き、
逆に2対1でも敵わないというプレッシャーを与えるトリックに成功している。
どう考えてもこの後はBIGが勝つように思えた。

だが、リョウ・サカザキの動きが変わった。

――速い。

いやただ速いだけではなく、何か動きが異質だ。
明らかに身体が悲鳴を上げるような角度からも拳を打ち込んでいる。
それでいて何も感じていない。
反撃を打たれても、その攻撃にそれ以上のスピードで拳を打ち込んでいる。
何のトリックもなく、明らかに感覚の反応だけでそうしているように見えた。

やがてBIGは反撃も挟めず、ただただ無数の拳脚を浴びて崩れ落ちた。
リョウ・サカザキがトドメの拳を打ち込めばMr.BIGは死んでいただろう。

その連撃はそれだけ暴力的で、破壊的で、そして美しかった。

ギースはその光景を見て、立ち上がって震えた。
タクマ・サカザキが敗れたという報告を聞いた時は
タクマも所詮は人の親だったと彼の甘さに落胆したのだが、それは違うかも知れない。
いや違うという確信がこの映像の中に詰め込まれている。

――これが極限流の神秘か。

気を操る術を極限まで極めれば、この境地がやって来るのだろうか。
サウスタウンで気功が珍しくない存在になっても尚、
極限流はさらに深い秘拳を隠している。

今、ギース・ハワードの興味の全てが極限流空手に注がれている。

――あの奥義が、どうしても欲しい。



リョウ・サカザキに敗れた後、Mr.BIGは行方不明となった。
彼の優秀な部下達も今はギースの部下となっている。
いや正確には、気性が荒く、Mr.BIGに絶対の忠誠を誓っている戦場の男達を
マフィア派の直属に置くのは怖かったのだ。
彼らには使いこなせず、組織が割れる可能性が非常に高い。

そこでボスはMr.BIGの席は置いたまま、ギースを第四幹部として、
新しい席を作ってまで彼を取り立てた。
彼も元を正せばBIGに取り立てられた同郷というデータがあるし、
ギース・ハワードならば使いこなせるという無責任な信頼もそこにはあった。

その結果ギースはついに、26という若さにして組織の幹部にまで上り詰めていた。


驚くほど理想的に進んだこの結果にリッパーはギースへの心酔を深めた。
まさか、まさかこうなることが解っていて
Mr.BIGにタクマ・サカザキをむざむざ与えたとは到底思えないが、
結果としては、間違いなく最高だ。

いやそんな信じられない先見をこのギース・ハワードという男は持っている。
到底思えない可能性も全く考えられないことではないし、
事実、結果として彼は組織の幹部の座を易々と手に入れ、
さらにMr.BIGの優秀な私兵まで手に入れてしまった。

リッパーはただ、自分の主の神域の才に恐怖を感じるほど心酔するしかなかった。

だが、今のギースの興味は組織の地位ではない。
その地位はただ利用するだけの物だ。

――キング・オブ・ザ・ファイターズという賭け格闘大会を開きたい。

そう進言したギースにボスは惜しげも無く金を渡した。
勿論、良い気になっている若造の行動に反感を持つ勢力は反対したが、
この男を飼い慣らすための投資をボスは惜しまなかった。

もはや組織のボスですら、ギース・ハワードの傀儡と化そうとしていた。


極限流の秘拳を、この大会で見極める。



「マジかいな、ユリちゃん……」

ロバート・ガルシアは口をあんぐりと開け、木の人形に、
「こおーけん!」「こおーけん!」と気を飛ばしているユリ・サカザキを見てそう言った。

タクマ・サカザキが帰還したサカザキ家は、
ガルシア財団の援助もあって、規模は小さいが、再び道場を持つことに成功した。
場所は高級住宅街が立ち並び、ガルシア家の別荘もあるサウスタウンベイと
セントラルシティの中間に位置するなかなかに良い地だ。治安も良い。

折りしもの格闘技ブームも相まって
新しい極限流道場にはすでに数名の入門者が詰め掛けていた。

逆に言えば、まだ数名ということになるのだろうが、
極限流の名が知れ渡っているのは残念ながら裏の世界が中心で、
表では全く無名の流派なのである。
開いたばかりの道場にそうそう人が押し掛けるわけはない。

だが食うや食わずの毎日をストリートファイトで耐え凌ぐ生活からは、
確実にオサラバすることが出来た。

そう、何もかもが順調だったのだが……

ユリ・サカザキが兄リョウに極限流を教えてくれと懇願したことで、
サカザキ家に再び大きな亀裂が走った。

「ダァ〜メだ! 何と言おうと絶対に駄目だ!」

「もう! お兄ちゃん! ケチ! バカ!」

見事なまでの兄妹ゲンカである。

極限流空手は強者を惹きつける修羅を背負っている。
それを打ち倒し続けることで自らも修羅と化したのが父タクマであり、
リョウもまた、極限流という拳を背負っている限り、
闘いの世界からは抜けられないことを自覚していた。

ユリの懇願はただ護身術を得るだけの結果にはならない。
必ず強者を呼び寄せ、彼女を闘いの世界に引き込むだろう。
リョウにそんな真似は到底出来なかった。

ユリを守るのはユリではなく、自分の役目だと確信しているリョウは、
さらに拳を磨くためにかつてタクマ・サカザキが潜伏していた山中へと篭り、
厳しい修行に身を投じた。

もっとも、ユリの追従が激しいので逃げたという見方もあるのだが……

「もういい! お兄ちゃんなんかに頼まないもん!」

とは、ユリの弁である。

そしてユリは次のターゲットを父タクマに絞った。
ユリにとって父が失踪したのは7才の頃だ。
厳格な父だった。いつも道場で兄をしごいていた印象がある。

とても自分の意見を聞き入れてくれるとは思えなかったが、
この10年の苦労話をチクチクとしていると、いともアッサリと道場入りを認めてくれた。
不敗の格闘家も我が娘には完敗だ。

そして実際の指導は今、ロバート・ガルシアが行っているというわけである。


「じょ、冗談きっついで……」

ロバートからそんな言葉が出たのは、今し方人形に放たれた、
ユリの「はおーしょーこーけーん」である。

確かに拙い。
気の練り方も威力もスピードも未熟だし、一発撃っただけでヘタリ込むほど疲労している。
とても実戦で使えるレベルではない。
レベルではないのだが…… それは間違いなく、覇王翔吼拳そのものだった。

実に最強の虎、ロバート・ガルシアが覇王翔吼拳を身に付けたのも
ブラックサバスの闘いの中であるため、ユリのこの成長は腰が抜けるほど驚いた。

――たった一年やで……

そう嘆くロバートの言葉通り、あれからたった一年間で
ユリ・サカザキは気功をほぼマスターしてしまったのである。

だが、ユリにも想いがあった。

肉体的な強度、腕力では女の自分は兄や父には敵わない。
ならばと、ユリは気の使い方ばかりをロバートにねだった。
実際、拳を組み合わせる闘いではまだまだ駆け出しの空手家の域を出ない。
覇王翔吼拳は撃てても、飛燕疾風脚や暫烈拳といった打撃技は出来ないのである。

「なんで、そんなに強ぅなりたいんや?
 そこまでせんでも、リョウやわいや、これからは師匠が守ってくれる。
 ユリちゃんがそんな無茶することないで……」

そう、ロバートが聞いたことがある。

これ以上、家族の足を引っ張らないため。それが理由なのだろう。
だがそれならば彼女には、リョウや自分、タクマといった、
言わば最強のナイトが3人も付いているのだ。
ユリが足を引っ張っているだなんて誰も思っていない。
女の子が傷を作りながら血の滲む修行を積むことなんて、ない。

でも、


あの時――

今まですごく怖かったし、やっとお兄ちゃんと再会できたとき、抱きついて泣きたかったの。

でもね。お兄ちゃんちょっとしか私と話してくれなかった。
すぐにお父さんのほう向き直って、怖い顔した。
私のことなんて目に入ってないみたい。
勝手だけど、寂しいな、って思った。

私が強くなったら、お兄ちゃん達と同じ物が見れるのかな――?って。
いっぱい、いっぱい色んなこと話してくれるのかな?って、そう思ったの。
仲間外れは――イヤだもん。

それにね、ロバートさん。
私を助けてくれたの、女の人なんだよ。
すごく強くって、かっこ良かった。女でも強くなれるんだよ。

だから、ロバートさん達の気持ちは嬉しいんだけど、
甘えてちゃいけないって、そう思ったの。自分のためにもね。

だから心配しないで、たくさん必殺技を教えて!



――サカザキ家には、柔かな風が流れていた。



ギース・ハワードが提案したキング・オブ・ザ・ファイターズは、まさに壮絶な内容だった。
まず、組織の存在は隠したまま、
莫大な賞金を餌にサウスタウン中の強者へと招待状を送る。
拒否は許さないが、罠に嵌めるように彼らを闘いの舞台へと引き摺り出すのが
ギースの腕の見せ所だった。

道場が復興し始めたばかりのタクマ、リョウの両名は
その賞金で確実に引き出せると確信していたし、
なにより高級街を中心に表社会へも露出のあるこの大会は極限流のアピールには最適だ。
そうなればロバート・ガルシアも出るだろう。

ジョン・クローリーは武器横流しの件を表沙汰とし、
Mr.BIG、及びその私兵の組織内の力を削ぎつつ、ジョン本人に職を失わせる。
そこでこの莫大な賞金をチラ付かせれば必ず出るだろう。

ミッキー・ロジャースもまた横流しの仕事を失って金がない。
キングもある理由で大金が必要であることを突き止めた。

Mr.BIGの失踪と共に組織を抜けたジャック・ターナーは
またブラックキャッツを再結成しようと躍起だ。
この大会はサウスタウン内へのアピールには充分だろう。
それに奴は元々ケンカ好きだ。理由などなくとも出場するかも知れない。

ケンカ好きと言えばリー・パイロンもである。
公に人を刻める機会を与えてやれば飛び付くだろう。
鉄の爪もルール上OKという処置を与えてやった。
しかしリー・ガクスウを動かすのは難しいか。まぁ先のない老人は必要ない。

決め手はやはり、ボスから奪った10万$の賞金だ。
サウスタウンの狼達は大なり小なり飢えている。
これでサウスタウンに住まう強者達はかなりの確率で動くはずだ。
動かなければ別の手を考えるまで。

あとは多少の乱入選手を加えて、
ボスからの資金でサウスタウン中に張り巡らせたケーブルネットでの賭け中継を
サウスタウンベイの富豪達へ向けて発信すればKOFは成功する。

失踪中のMr.BIGは邪魔するために必ず乱入して来るはずだ。
ジェフ・ボガードは必要ないが、来るなら勝手に来るが良い。

この大会で強者を集め、来たる日のための自分の部下とする。
第一のターゲットは無論、極限流だ。
目が擦り切れるほど見た究極奥義の秘密は、この機会に必ず奪う。

幹部となり、人数の膨れ上がった自分の部下にギースは新しい柄の黒スーツを支給し、
自分の部下であることを際立たせると共に、従来の組織の制服から方向性をズラした。
そしてファイターひとりひとりに彼らを複数付け、神の視点からの先導で自ら闘いへ導く。
ヘリが舞い、サウスタウンの至る所で、昼夜問わず強者達の闘いが行われる。

全てを握るのはギース・ハワードだ。



キング・オブ・ザ・ファイターズは波乱の幕開けとなった。
まず、モンゴル相撲を使うテムジンという男がミッキー・ロジャースに乱入した。
港で荷下ろしをやっている男らしい。
なるほど人民雑多なその場所ならこの大会の情報が転がっていてもおかしくはない。

そして、その男がなんと暗黒街のチャンプに勝ってしまったのである。
これで乱入成立。
未知の強者の登場に、こういうイレギュラーが楽しいとギースは笑った。

さらに乱入者は続き、タクマ・サカザキの娘、
ユリ・サカザキがキングの元へ向かい、そして敗北した。

僅か一年であそこまで気功を身に付けているのはギースにも驚愕だったが、
組織の人間もタクマの数ヶ月の指導で気功の基礎を身に付けていたことを思えば、
惜しみなく奥義を授けられたであろう実子のあの力も頷けないでもなかった。
さすがにその才能には感嘆するしかなかったが。

さらにファイター達は潰し合い、その壮絶な死闘に賭けは大盛況となった。
リョウ・サカザキ、ロバート・ガルシアの両名はジャック・ターナー、ジョン・クローリーを倒し、
順調に勝ち上がっている。
一般層への宣伝はその路上での死闘だ。
大会が進むに連れてマニア達、一般層の間にもこの大会の噂は広がった。
噂の広がり易いセントラルシティのチャイナタウンでは観戦する人間も多数居る。

そこでタクマとリー・パイロンをぶつける。
せいぜい宣伝するが良いというギースの計らいだった。
だがその試合がタクマの勝利で幕を閉じた後、
次の試合のためにエアポートへと移動させたタクマを、第三の乱入者が急襲した。

その乱入者は背に『炎』という文字を刻んだ蒼い忍装束の男で、
本来のタクマの対戦相手だったテムジンを、一刃で切り裂いた。

「我が忍術は天上天下において最強である。故に我を超えるもの、全てを断つ」

口元まで忍装束で隠したこの男の名は、如月影二と言った。

まさに、奇襲だった。
夜だったのも災いしたのか、完全に気配を絶っていた忍に、
テムジンを待っているタクマは空気を裂くような刃を浴びせられ、胸の古傷を抉られた。
まだ中継も始まっていない。
この男は明らかに他の参加者とは違った。

「極限流の師範がこの体たらくとは笑わせる」

「……貴様、極限流を知っているのか」

「伝え聞くに、この世で最強の拳は極限流などという流派だと言う。
 だが我に言わせれば笑止千万! 我が拳で地に伏せよ! 極限流!」



リョウ達はその録画中継をサウスタウンベイにあるロバートの別荘で見ていた。
雰囲気は当然のことながら重い。

忍者は左胸の古傷から夥しい血を流しているタクマに
何の容赦もなくトドメの拳を打ちつけた。
大上段から両手で振り下ろされたその拳は空気の刀となって、
タクマの首筋から胸の辺りまでを斬り裂かんと襲い掛かった。

だが、タクマは血に染まった左腕を犠牲にして防御すると、
膝を突いたまま右の剛拳を忍者に打ちつけた。

これはもう大会ではない、殺し合いだ。

間合いが離れ、タクマが虎煌拳を撃ったところでリョウ達は再び驚愕した。
流影陣――という声が聞こえただろうか。
虎煌拳は忍者の光に跳ね返され、タクマの胸を打った。

――父さん!

録画中継でなければすぐにでも飛んで行っただろう。
さらに出血の激しくなったタクマを、忍者は一片の情も掛けずに切り裂いた。
忍者は明らかにタクマ・サカザキを殺すつもりだ。

そもそも、肩の付け根辺りにある左胸の傷――
かつて、リー・ガクスウに討たれた傷は一生傷なのである。
それが先のリョウとの闘いで開き、なんとか応急処置は施せたが、
今度開いた時にはもう格闘家としての命はないと言われていた。

それが開き、完全に左腕が使えない状態にありながらタクマは
全く闘志を失うこともなく、右腕一本で闘いを続けた。
それを見た忍者の狙いはもう死んでいる左ではない。
右を狙って鋭い脚打を連続で放っている。

それでも尚、タクマは変色した右腕で暫烈拳を放ち、忍者を跳ね飛ばした。
生きている脚を使い飛燕疾風脚で接近すると、
まだなんとか動く右腕で忍者の首をロックし、膝の連打を顔面に浴びせる。

タクマ・サカザキが鬼と言われる所以をリョウはまざまざと見せ付けられていた。
なぜそこまでの鬼気を見せ、なぜそこまで拳の強さ、
拳の勝負に執着出来るのか解らなかった。

――俺はこんな男に勝ったのか……?

タクマとの闘いの最後に無心に放たれた奥義――龍虎乱舞。
こんな男を沈めた奥義が、今更にリョウには恐ろしく思えた。
使い方を誤れば、多くの命を奪う魔拳となるだろう。

忍者の動きが一層鋭くなった。
音も無く高速で接近すると、もはや動きの鈍いタクマに刃のような手刀、
そして変則の脚打を連続で浴びせ、トドメに再び大上段からの真空の拳を振り下ろした。

ユリはもう画面を見れない。

だが険しい表情で眼を離さないでいたリョウとロバートは、
何者かがタクマを救出し、そのまま消えたのを確かに見た。

試合はタクマ・サカザキの逃亡で如月影二の勝利となった。
耳障りなファンファーレが鳴り響き、賭けの結果が表示されている。
大番狂わせだ。

ガルシア家の別荘に、言葉はない。



「まさか貴様に助けられるとはな……」

男の肩に身体を預け、タクマが力無く言った。

「いや、貴方はチャイナタウンの有名人だ。何かあったらガクスウ老師も悲しむ」

「チャイナタウンを破壊しようとした男を捕まえて、人の良いことだ」

タクマを支えている男は、黒いチャイナ服に身を包んだジェフ・ボガードだった。
ジェフはタクマを支え、リー一族のテリトリーまで彼を運ぶと、また闇へと消えて行った。
リー一族には薬学の知識があり、
リー・ガクスウも、リー・パイロンも薬剤師の資格を持っている。

タクマがガクスウに突かれた傷は中国拳法の点穴であり、
その薬と共に何か治療の術があるのなら病院よりも頼りになるだろう場所だった。
そして何より、あの忍者が再び襲って来てもリー一族の元なら安心だ。

ジェフ・ボガードは持ち前の正義感も確かにその行動理念の中にはあったが、
あの男の動きで死人が出ることが何よりも苦痛だった。

ジェフはこの大会が組織の幹部となったギースの開催した物であることを、
すでに突き止めていた。


その報告に、ギースは歯軋りした。
怒りを露わにしたギースなど、リッパーは見たことがない。
いつも何かの余裕を感じる人だ。
自分が失敗するはずがないと確かな実力で確信している。
それが傍目に解るほど怒っているのだから、只事でないことは解った。

忍者の乱入と、敗れたタクマの事はギースにはやはり、
“イレギュラー”に過ぎない出来事だ。
リョウとの闘いで古傷が開いた影響だろうか、
タクマの衰えはリー・パイロンとの一回戦でハッキリと見て取れ、
ギースに大きな落胆を与えた。

タクマの敗北はもはや興味の対象ではない。
リョウの『龍虎乱舞』と言うらしい奥義だけがギースの眼中を支配している。

だがジェフ・ボガードのこういう形のでの乱入は、ギースの腸を煮え繰り返させた。
自分の計画を見透かしたように現れ、正義ぶって敗者を救出している。
何様だ、この男は。

ファイターとしてジェフが乱入して来るのならギースは歓迎するつもりだった。
リョウとぶつけることで、ジェフなら龍虎乱舞を放つまでに追い込めただろう。
噛ませ犬としては最高の役者だ。

だがこのこそ泥のような乱入は、男らしくないと言ってしまえば変だが、
ギースに大きくジェフを見損なわせる要因となっていた。
その落胆が、ギースには腹立たしく感じた。
正面から自分に向かって来るならいざ知らず、コソコソと嗅ぎ回った挙句、このこそ泥行為である。

ギースの噛み締めた唇から、赤い鮮血が流れた。



リョウが篭っていた山の手前側には、
サウスタウンとは思えないほどに平和を連想させる、美しい牧場があった。
モンクホーシャファームというその牧場での力仕事はリョウの修行には最適で、
山から降りると決まってそこでタダ働きをした。

そんなだからリョウは牧場の親父さんに気に入られ、
駄賃としては大きすぎる、馬を一頭プレゼントされている。
リョウは当然断ったが、こいつを世話するためにまた手伝ってくれ、
と言う親父さんの穏やかな笑顔に絆され、受け取ることにした。

今ではリョウの宝物のひとつである。


そんな牧場に、リョウとキングは居た。

「キング、久しぶりだ。借りを返したかったんだが、見付けられなくてな。
 こんな形でも会えて嬉しいと思っている」

「あんたじゃないけど、修行してたんだ。未熟さを思い知ったんでね。
 それに、借りと言うのなら私にもある」

キングは速いテンポでリズムを刻む、ムエタイ独特の構えを取る。
太陽の光を反射する金色のショートヘアがふわふわと舞った。

本場のムエタイほど極端な構えではないが、
彼女はフランス式キックボクシング、サバットの達人と言って良い存在だ。
シューズを着用して闘い、その固い部分を急所にめり込ませるのがその類似点である。
どうやらムエタイのチャンプの指導を受けた後、独自で技を磨いた結果、
サバットに近い異質なムエタイになったらしい。
なるほどシューズの使い方はケンカ慣れが故だ。

彼女はそのケンカで伸し上がり、
ジャック・ターナーのブラックキャッツに匹敵するチームの頭にまで納まったのである。

「まぁ待て。組織からは抜けたのか?」

リズムが止まる。フンと鼻を鳴らしながら、キングは構えを解いて答えた。

「さぁね。裏切ったのは確かだろうさ。
 でも肝心のボスがお前に倒されてしまったんじゃ、正式に脱退もできやしない」

「そうか? ちょっとは女らしくなったじゃないか。その方が似合ってるぜ、キング」

「ふっ、ふざけるな! お前に褒められるためにやってんじゃないんだよ!」

そう言ってはっはっはっと豪快に笑うリョウを真っ赤に怒鳴り上げながら、
キングは回想した。

このリョウという、妹のためだけに組織に牙を剥いた猛々しい男を――

16才の頃にこの街へ流れて来てのスラム暮らしは、キングには過酷だった。
彼女は名前を捨て、女を捨て、髪を切り捨てて男装に身を包み、
ストリートファイトで金を得ようとした。
その実力は確かで、すぐに元々あったあるチームの頭へと伸し上がった。

だがやがてジャック・ターナーとの闘いに敗れ、成すがままにブラックキャッツへと吸収され、
さらにそのまま組織へと下り流されるままバンサーで日銭を稼いでいたキングに、
このリョウという男は鮮烈だった。

事情を聞けば、さらわれた妹の為に闘っていると言う。
妹の為だけに、死ぬのが解っていて膨大な規模を誇る組織に牙を剥いている。
組織の恐ろしさを内部から知ってしまい、抜けるに抜けられず、
大切な目的も遂行できずに燻っていた自分と比べて、リョウはあまりにも眩しすぎた。

キングにもまた、弟がいたのである。


「――リョウ、闘う前にこんなこと言うのは卑怯だけどね。
 私にも弟がいるんだよ。
 その子――ジャンは生まれついての病気で足が不自由でさ。
 手術には莫大な金がかかる」

――負けられない。

その思いを噛み締めるように、キングは告白した。
この思いを強く持たない限り、リョウには勝てない。それは解っていた。
リョウにわざと負けて貰いたいなどとは思っていない。
だがほんの少しの甘えはある。

自分の覚悟と、リョウの戸惑いを、精神的な勝機にしたかった。

「私は負けられないんだよ! リョウ!」



サウスタウンを千里眼で見渡すように天へ背を伸ばすイーストアイランドの巨大タワー。
その頂上に、ギース・ハワードの新しい事務所はあった。

光を反射する煌びやかなデスクと、黒塗りの豪勢なソファーが三つ。
隣りには環境音楽として一流の演奏家に弾かせるためのピアノがある。
デスクの背後には最新鋭のモニターがあり、
サウスタウンの全てのデータを絶えず映している。

背後の壁は無論、ギースが気に入っている、
この超高層ビルからの景色を堪能するためのガラス張りだ。
以前の事務所とは違い、タワーの頂上からの景色は
全てを見下したようでとても心地良い。
それがまだ仮初めの頂上であることを理解しながらも、ギースはその美酒に酔った。

そこでリッパーから報告されたKOFの進行状況がギースをさらに上機嫌にさせる。
如月影二とのカードを組んでいたロバート・ガルシアが、行方不明となったのである。

「ついにドブネズミの頭目の乱入か。いや乱入ではないな、闇討ちか。
 ハッハッハッ、あの男のやりそうなことだ」

あの男――Mr.BIG。

KOFを監視していたBIGがついに参加者を闇討ちで消すという
暴力行使に出たのである。
この大会を破壊し、混乱に乗じてギースを殺害し、そして組織に返り咲く。

まだまだ組織内のBIGの部下はBIGの命令で動く。情報も逐一入って来る。
このKOFはMr.BIGにとっては規模の小さい暴動である。
自らブラックサバスを再現してくれたギースにBIGは感謝しただろう。

Mr.BIGの横暴でKOFの準決勝が潰れてしまった。
例えBIGがギースの殺害に失敗したとしても、
膨大な額をつぎ込んだこの大会が失敗すればギースの利権剥奪には充分すぎる理由だ。

リッパーにはギースの余裕の意味が解らない。
怒りに冷静さを欠いていた姿を見ているだけに、不安が募る。

「ロバート・ガルシアも龍虎乱舞に目覚めている可能性はある。
 さて、BIGよ、返り討ちにされねば良いがな、クックックッ……
 ――リッパー」

「は」

考え事をしていたところで名前を呼ばれ、リッパーに僅かな動揺。
だがもうそれを見せるような男ではない。忠実なギースの秘書である。

「忍者はどうした? 標的を失って待ち惚けする男でもあるまい」

この言葉にリッパーは安心した。
ギース様はいつも通り冷静なままだ、とそう思えたのである。

「すでに、リョウ・サカザキの元へ向かっております」

ギースは笑った。

この如月影二というイレギュラーは大会などに興味を持っていないように見える。
ただ極限流だけを狙ってサウスタウン中を駆けているのだ。
後を追うギースの部下の疲労も並大抵ではない。

それが解っているからこそギースは余興としてロバートにぶつけたのだが、
それがBIGの妨害によって流れてしまった。

もう大会は滅茶苦茶と言って良い。
だがそれでもギースが笑っているだけで、リッパーに不安は消えた。
この人は、先の先まで見据えて行動している。自分はただ従うだけだ。

「リョウvs如月影二が決勝戦だ! ライヴ中継の準備を急げ!」



――モンクホーシャファーム

穏やかな風が舞う中、立っているのは一人。
大きなシルエット。
オレンジ色の特徴的な空手着を着、
まるで無造作に伸ばされたボリュームのある金髪がゆらゆらと揺れている。

勝ったのは、リョウ・サカザキだった。

「――キング、俺に負けて欲しかったのか? だが、俺は……」

キングの胸元は、気で焼け爛れたようにはだけ、熱を持った肌が露出している。
そこに全く、手加減がなかった証拠だ。

だが、そんなことはキングには解っていた。
リョウがそんなことで手を抜くような男ではないと解っていたから、キングは甘えられた。

「――見くびるんじゃないよ」

女のように足を組み、胸を押さえながら俯いてキングは力無く言った。
リョウがどんな顔をしているのかは見なくとも解る。
自分の手前勝手な希望が、リョウを傷つける結果となっているのが苦しかった。

そんなキングに、リョウは何もかける言葉がなかった。
ただ、もう負けられないという決意だけが、身体中を駆け巡っていた。

ギースの思惑とは違い、リョウは元々金のためにこの大会へ出たわけではない。
そもそも賞金の正確な額さえも知らないのだ。
ただ修行の成果を試しがてら、ロバートと決着をつけられればそれで良いと思っていた。
あとは道場を父に任せきりにしている負い目から、
極限流の宣伝になるのならそれも良いと、ただそれだけの理由の参加表明だった。

それに、ロバートとは良いライバルだ。
“虎煌拳”とは、虎を煌うために名付けられた拳。
元々はチャイナタウンの虎、リー・ガクスウへのタクマの敬意だったのだろうが、
リョウにとっては最強の虎、ロバート・ガルシアへの敬意。

父も二人が良いライバルになれるよう、リョウには虎煌拳を、
ロバートには龍を撃つ拳、龍撃拳として虎煌拳を授けている。
決着とは言っても、これで終わりじゃあない。
二人は永遠に切磋琢磨し、鍛え合って行く。
リョウにとってこのKOFはさほど重い大会ではなかった。

だが、もう負けられない。
自分は、キングの想いを背負ってしまった。

想いを背負っている人間が必ずしも勝てるわけではないということは
皮肉にも自分が証明してしまったが、それで人が強くなるのは間違いない。
キングは一年前とは比べ物にならないほどに強かった。

――キング、お前の決意は見せて貰った。

後は自分が応える番だ。


「おい、居るんだろ? 出て来いよ、忍者! 覗きは趣味が悪いぜ!」

突然リョウが張り上げた声にキングが顔を上げると、
リョウの背後に、まさに忍び寄るようにして黒い長髪を風で揺らした如月影二が居た。

「――ほう、さすがは現在極限流最強と言われる男。
 よくぞ我の気配を察したものだ」

「また不意打ちするつもりだったのか?
 生憎今は真昼間だ。それにこんな広い場所じゃ隠れようにも隠れられまいよ」

ふんっ、と鼻で笑う忍者。どんな表情をしているのかは口元を覆った布で見えない。
忍者付きのギースの部下が遅れてやっと辿り着いた。

「お前の相手はロバートだったはずだ。ロバートはどうした?」

「知らぬな。
 拙者が知っているのは極限流は敵前逃亡を常とした愚劣な流派であるということだけだ。
 だが、極限流は全て滅する!」

何?と、怒りを持った訝しげな表情をするリョウに、黒服が、これが決勝戦だと告げた。
本来ならばリョウに休息の時間を与えてやらねばならないところだが、
如月影二という男の気性を考えればそんな時間は作れない。
それに、すぐに行えというギースの命令もあった。

中継が始まる――

「我が如月流忍術は天上天下において最強である。
 最強とは、うぬらのような恥知らずな流派が軽々しく口にして良い物では無い」

「最強だなんて言ったか?
 そんな理由で付け狙われちゃ、こっちはいい迷惑だ」

構える。忍者の眼つきはまさに獲物を狙う鷹のそれだ。
ロバートのことは気がかりだが、今はこの忍者を倒すことに集中しなければならない。
それだけこの忍者は強い。
それにあいつはいちいち心配されるようなタマでもない。

疾ッ!

忍者が駆けた。さすがに速い。
横に振り払われた手刀は真空波を生み、リーチを格段に伸ばしている。
幕末より受け継がれし如月流の、骨破斬りという奥義。
かつては刃物を用いた技だったのだが、
影二のそれは素手でありながらそれ以上の切れ味を持っていた。

その名の通り、骨を破壊すべく忍の刃がリョウの首を襲う。
リョウは右で振り払われる拳をすれ違うように左手側へと躱した。
だが忍者は背面を向けたまま、背に瞳があるかのように正確に飛ぶと、
リョウの頭上へ無数の蹴りを打ち下ろして来た。

「ぐっ!」

一撃の蹴りの反動で身を浮かせ、さらにもう一撃を放つ。
その連脚は止まらない。如月流、天馬脚。
いち観戦者となってしまったキングもその足技に舌を巻く。

だが止まらないのなら止めてやるまで。
リョウは拳に気を集め、飛び上がるようにアッパーを捻り込んだ。
ビルトアッパーを改良した、虎咆である。

それを浴びながらも空中で体勢を立て直し、華麗な動きで間合いを取る影二。
だがダメージはある。リョウは追撃の虎煌拳を放った。

しかし――

「笑止! 流影陣!」

忍者の振り広げられた両手から空を切り裂く光が生まれる。
そこは真空。物質が存在出来ない空間。
それに飲み込まれた闘気は影二の吐気と共に本来の持ち主の元へと帰還する。
すなわち、如月影二に撃ち込んだ気は全て我が身に還るのである。

そうだった――
と、思い出したリョウは反射的に気を撃ってしまった自分の浅はかさを悔いた。
激突。以前より威力を増した自分の虎煌拳が鈍痛を刻む。

「極限流は気を撃ち出した直後にこそ隙が有る! 避けられまいよ!」

如月影二は対極限流用に技を用意して来ている。
並の執念ではない。

忍者がまた踏み込んで来た。
体勢を立て直した瞬間にはもう忍者は大上段に振り被り、
真空波の斬撃を打ち下ろしていた。

「――霞み斬り!」

だが、これは見た。
先程の虎煌拳反射でリョウの頭脳にはあのVTRが鮮明に甦っていた。

――躱せる!

交差の後、鳴ったのは斬音ではなく、激突音。
リョウは霞み斬りを死角の横から左手で弾くと、
山中で大木をへし折って来た渾身の正拳突きを影二の顎へ浴びせた。
吹き飛んだ口布の中から赤色のぬめりが見えた。

「なかなか良い正体してるじゃないか! 誰かみたいに隠してちゃ勿体ないぜ!」

息を飲むように闘いを見つめているキングに軽く目配せすると、
リョウは接近戦を挑むべく突撃した。



ギースの居るタワーでは騒動が起こっていた。
一部の部下が暴れ出しては、それを大量の部下が抑える。
そんな光景が何箇所にも渡って繰り広げられているのを事務所のモニターが映している。

「残念だったな、BIG。お前が近づけば近づくほど裏切り者が顔を出す」

「ふん、あいつ等はよくやってくれたよ。お陰でこうしてここで貴様を殺せる」

ギース・ハワードの眼前には、Mr.BIGが居た。

「部下思いなのは結構なことだ」

ギースは初めから自分の傘下へ加わったBIGの私兵を信用などしていなかった。
冷遇し、武器を奪い、ジョン・クローリーからのルートも断つことで、
彼らの強靭な兵士としての能力を限界まで奪っていた。
それでも謀反が起きないと解っていたのは彼らが未だ、
Mr.BIGの帰還を信じているからである。

ギースは彼らにわざと情報を漏らし、それをBIGに提供させた。
それによりさらに彼らはギースの下から離れられないのである。
Mr.BIGの為に、ギース・ハワードの情報を送る。
それが彼らの今の使命であり、それによって主の帰還が早まると信じていた。

だが、彼らの正確な数はギースにも測りきれていない。
BIGの私兵でなくともBIG派の人間もまだ居るだろう。
それらを全ていぶり出すには、やはり主に来て貰わねばならない。

Mr.BIGは彼らの戦力を頼りにここへ乗り込んで来たのだが、
すでに撹乱されている情報に気付かず、
ギースの事務所という檻に一人で入れられていた。
BIGは私兵達を信用し過ぎたのである。

Mr.BIGの強力な私兵達は、削ぎ落とされた武力と、
ギースの部下の数の力によって確実に制圧されていた。

「しかしギースよ。キング・オブ・ファイターズだ? クックックッ、笑わせる。
 金に目が眩んで俺に格好の狩り場を与えてしまうとは、
 貴様には幹部の座は少々大きすぎるようだな」

笑うBIGだが、すでに虚勢か。

「まだいぶり出されたことに気付かないのか?
 この場所はお前が辿り着いたのではない。私が案内したのだ。
 私の狩り場として選んでやったのだよ」

KOF自体がMr.BIG自身と、自分の兵を叩き出すための罠――

私兵達が次々と制圧されている映像を見ていればもう嫌でも気付く。
だが、彼は追い詰めたつもりで追い詰められていることを認めるつもりはない。
ここでギースを殺せばそれで済む話なのだ。
何も焦る必要はない。
戦場を潜って来た男の落ち着きは、この修羅場にあっても冷静な思考を与えた。

「破鏡不照という言葉を知らんようだな、BIG。
 貴様には所詮、現場指揮官の能力しかないのだよ」

「貴様を殺すには充分さ……!」

言うなり、BIGが飛んだ。
この長身の男が、全身を伸ばし、さらに棒を突き出して飛空して来る。
クロスダイビング。BIGの得意技である。

だが、

「遅い! BUZZSAW!」

ギースは奇襲を見切り、すかさず上と取ると残像が糸を引く手刀を振り下ろした。
――飛翔日輪斬。
日本刀の切れ味がBIGの背を割った。

「ガァアア!」

「ずいぶん遅いな、BIG。ロバート・ガルシアによほど手酷くやられたと見える」

両手を広げ余裕有り気に言うギースを、BIGは膝を突き、歯軋りしながら睨む。

「しかも討ち漏らしたそうじゃないか、BIGよ。
 戦場では常勝だったのかも知れんが、極限流には3戦3敗だな。
 そして今度の敗戦で――チェックメイトだ!」

ギースが走った。
BIGが起き上がる間もなく、中腰の顔面に後ろ回し蹴りが入る。
すぐにニ撃目のミドルキックが来た。
何とか受けて起き上がろうとしたところでスライディングを打たれる。
よろけた顔面に今度は裏拳が入った。
反撃に転じたBIGの攻撃は、一撃として当たらない。

「BIG! このタワーの名を教えてやる! ――ギースタワーだ!」


【10】

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